移植された臓器において,リンパ球などを介したレシピエントの免疫反応(拒絶反応)によりドナーの血管内皮が傷害されると,様々なサイトカイン・ケモカインが産生される。慢性期においては,平滑筋様細胞が新生内膜(移植後動脈硬化)を形成し,血管閉塞による移植臓器の機能不全をきたすことが臨床での大きな問題となっており,移植患者の予後を制限する。神経伝達物質として広く知られているアセチルコリン (ACh) とムスカリン性ACh受容体(mAChR)は,リンパ球などにも存在し,刺激によるACh産生促進やmAChR発現増強が報告されている。しかしながら,移植後動脈硬化進展におけるmAChRの役割はほとんど知られていない。本研究では,mAChR欠損 (mAChR-KO) マウスを用いて心臓または血管移植モデルを作製し,mAChRの移植後動脈硬化進展への役割を検討する。まず初めに,マウス異所性心臓移植モデルを作製し,mAChRの移植心生着率への影響を調べた。レシピエントにはmAChR-KOマウス(C57BL/6,H-2b)あるいは野生型マウス(mAChR-WT,C57BL/6,H-2b)を用いた。ドナーにはMHCの異なるマウス(BALB/c [H-2d])を用いた。結果,mAChR欠損による心生着率への影響は認められなかった。次いで,ドナーマウスの系統をC3H/He (H-2k)に変更して心生着率への影響を調べたところ,先ほどと同様に野生型との差は認められなかった。以上のことから,MHC完全不一致のドナー・レシピエントを用いた心移植モデルでは,mAChRの関与はないことが示唆された。同じドナー・レシピエントの組み合わせを用いて血管移植モデル作製し,移植後動脈硬化進展について調べたところ,mAChR欠損の影響は認められなかった。しかしながら,Minor histocompatibility antigenの異なるドナー・レシピエントの組み合わせで検討したところ,mAChR欠損マウスにおいて有意な差が認められた。今後,メカニズムについて検討を進める予定である。
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