研究概要 |
IL-17は、癌周辺の炎症と血管増生を誘導することで癌細胞の増殖を促進する反面、細胞傷害性T細胞の活性化を介して腫瘍抑制的にも作用する。一方、癌の転移におけるIL-17の役割は殆ど明らかになっていない。癌の転移は「浸潤能の獲得」「浸潤」「血管内流入」「血中での生存」「血管外流出」「遠隔組織での増殖」のステップからなる。申請者はマウス乳癌自然転移株4T1をIL-17欠損マウス乳腺内に同所移植したところ、著明に肺転移が抑制されることを見いだした。そこで、本研究ではIL-17が転移のどの相に影響するか調べるために、4T1細胞を野生型およびIL-17欠損マウスにそれぞれ静脈内移入した。その結果、両群で生存に差を認めなかった。このことより、IL-17の肺転移促進作用は転移形成の早期(血管内流入まで)に何らかの作用を及ぼすと考えられた。 次に、転移形成の早期段階での腫瘍環境について調べるために、担癌14日目および21日目に腫瘍組織を摘出し、コラゲナーゼ処理にて単細胞に分離し、フローサイトメトリーを用いて腫瘍浸潤細胞を解析した。その,結果14日目の時点で野生型とIL-17欠損マウスではCD11b+Ly6C+単球とCD11b+F4/80+マクロファージの比率が異なり、IL-17欠損マウスではF4/80マクロファージへの分化が遅れることが示唆された。21日目では両群ともF4/80+マクロファージが大部分を占めていた。また、腫瘍局所に浸潤するリンパ球を解析したところ、14日目の時点で1L-17欠損マウスにおいて明らかにFoxp3+制御性T細胞の浸潤が減少していた。同時に、所属リンパ節と脾臓細胞を解析したが、腫瘍局所と同様の結果が得られた。 申請者は腫瘍浸潤マクロファージに着目し、このマクロファージの表面マーカーを解析した。その結果、IL-17欠損マウス腫瘍に浸潤するマクロファージは野生型に比べてCD206(mannose receptor)の発現が低く、class II発現が高く、よりM2マクロファージの性質を帯びていることが示唆された。これらの結果から、IL-17は腫瘍局所において、M2マクロファージへの分化を促進することで転移を促進する機序が示唆された(第71回日本癌学会学術総会ポスター発表)。
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