エストロゲンの受容体は、核内受容体と細胞膜受容体に分類される。その作用は、核内受容体を介した遺伝子発現調節のみでは説明できないため、細胞膜受容体の探索が行われてきた。最近、細胞膜に存在するG protein-coupled receptor 30(GPR30)が発見され、予後の悪い卵巣・子宮ガンでその発現量に有意な増加や変異があることを見出した。GPR30の生理機能と疾患との関連性を明らかにするために、変異を持つ発現ベクターを用いたin vitro、in vivo解析を行う事を本研究の目的とした。まず、転写活性など生理的環境を整えるために正常型と変異型を安定に発現するBAC(bacterial artificial chromosome)ベクターの作製を行った。現在はこれらのBACベクターを用いたTgマウス作出に向けて維持管理中である。また、GPR30の生理機能を調べるために、Gタンパクの同定を行った。GPR30発現ベクターと種々のGタンパク発現ベクターを共発現させて、エストロゲン刺激時の細胞応答を測定することで、どのシグナル経路を介して作用するのかを調べた。今回用いたGタンパク発現ベクターは、刺激により活性化すると細胞内カルシウムを上昇させるキメラ型を用いた。つまり、fura-2を用いたカルシウムイメージングにより、GPR30がどのGタンパクを介しているのかが特定される。その結果、αサブユニットに分類されるGqを活性化することが示された。Gqは、ホスホリパーゼCを活性化しIP3を産生する。IP3によるカルシウム濃度変化により、血管収縮が制御される。閉経後のエストロゲンの減少とエストロゲン受容体GPR30発現の上昇が、どのように疾患に関与しているのか未解明な点が多い。本研究で明らかとなったGqを介したシグナル経路と病態との関連性を明らかにすることが今後の課題である。
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