研究概要 |
本研究では、乳癌における新規慢性炎症促進因子Angptl2の発現と乳癌進行度との関連について解析を行った。研究代表者は様々な乳癌細胞株(MCF-7, T47D, SK-BR-3, MDA-MB453, MDA-MB231)を保持しているが、これらの細胞株の中で、Triple negative (TN)乳癌であるMDA-MB231において、もっともAngptl2の誘導を認めた。またAngptl2は分泌タンパクであるため、Angptl2産生細胞が実際にAngptl2タンパクを細胞外に分泌するかを明らかにするために、MDA-MB231を長時間培養し、培養上清中のAngptl2タンパク濃度を測定した。培養上清中のAngptl2タンパク濃度は、細胞の増殖に伴い上昇した。血清Angptl2値と乳癌進行度との関与を明らかにするために、MDA-MB231を免疫不全マウスの乳腺に移植するマウス担癌モデルを作成し、血清Angptl2値と乳癌の浸潤・転移との関連について検討した。肺転移が著明にみられる移植後9週目において、血清Angptl2値は著しく上昇していた。これらの結果から、血清Angptl2値は、乳癌の癌浸潤・転移の指標となる可能性が示唆された。次に、ヒト乳癌患者における血清Angptl2値が、癌浸潤・転移の指標になるか検討した。他臓器に遠隔転移していた進行癌患者の血清Angptl2値は、健常人あるいは非浸潤癌の患者血清と比較して有意に上昇していた。また、エストロゲンレセプター且つプロゲステロンレセプター陰性の乳癌患者において、癌組織の病理学的悪性度(核グレード)が高いほど、血清Angptl2値が高いことを見出した。これらの結果より、ホルモンレセプター陰性の乳癌患者における血清Angptl2値は、乳癌組織の悪性度の指標の一つになりうる可能性が示唆された。
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