研究課題/領域番号 |
24791391
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
岡田 克也 埼玉医科大学, 医学部, 助教 (60364775)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 生体吸収性ポリマー / 膀胱再生 / ブタ |
研究概要 |
本研究は、ブタの膀胱壁を部分的に欠損させた後、同部に独自に開発した生体吸収性ポリマー(BAPS ポリ乳酸:ポリカプロラクトン=50:50共重合体、ポリグリコール酸の線維で補強。約8週間で完全加水分解吸収)をパッチ状に移植し、移植部がnative同様に再生するかを試みた研究である。まず前段階として、雑種ブタ(20kg~30kg)の膀胱壁を5×4cm大に欠損させ、同じ大きさにトリミングしたBAPSを移植、3カ月後再開腹すると移植部の破綻や尿漏は認めず、摘出した移植部は肉眼的、組織学的にnative同様の膀胱壁が再生したことを確認した。しかし、5×4cm大の欠損は比較的小さい欠損であり、欠損部を直接縫合閉鎖した場合のものと比較して膀胱容量など著変が無い可能性が考えられ、それでは本手技の臨床的意義は少ない。よって、膀胱壁をより大きく9×7cm大に欠損させ(およそ膀胱の1/2)、同様にBAPSでパッチ状に移植した。4週後に膀胱を摘出し観察すると、移植部の破綻は認めないものの厚く大きな潰瘍を形成しており、移植部は約30%程度にまで著しく収縮していた。9×7cm大に欠損させ直接縫合閉鎖したものと、4週後の膀胱容量を比較すると、BAPS移植群において有意な増加はみられなかった。よって今後は、BAPSの収縮をいかに予防し、膀胱容量を確保するかの工夫が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、膀胱壁をBAPSの移植によってnative同様に再生させることを目的としているが、BAPSを移植することで膀胱容量の増加がえられなければ、臨床的な意義は少ないと思われる。膀胱にはある程度の伸展性があるため、小さな欠損では同部を直接縫合閉鎖しても頻尿などのQOL低下に繋がらないと考えられるからである。今回、より大きくブタの膀胱壁を欠損させ、同部にBAPSを移植して肉眼的、組織学的にnativeに類似した形で再生し得るか実験を行った。これまでの5×4cmの欠損に比べ、9×7cmとより大きく膀胱壁を欠損させてBAPSを移植(n=3)し、4週間後に犠牲死させ膀胱を摘出、評価した。また膀胱容量を比較するため、BAPSを移植せず欠損部を直接縫合閉鎖(n=2)した群も作成した。4週間後のBAPS移植群では、肉眼的に移植部の破綻や尿漏は認めなかったが、同部を硬く触知した。内腔面をみると大きな潰瘍を形成し、移植部は約30%程度にまで収縮していた。組織学的には、貪食細胞や線維芽細胞を中心とした炎症細胞浸潤の塊で、移行上皮や筋層などの膀胱組織の再生はほぼ認められなかった。また、膀胱容量は直接縫合閉鎖群が平均290mlであったのに対し、BAPS移植群は平均370mlで、有意な容量増加は得られなった。このように大きな膀胱欠損部にBAPSを移植した場合、移植部がこれ程まで強い収縮を来す事はやや想定外であり、収縮を予防するための工夫が必要となるため、新たな追加実験が必要な状況である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は生体吸収性素材を用いた膀胱再生という点で、再生医療分野としては非常に興味深い知見が得られていると思われる。これまでブタの消化管や胆管などに対し本素材を用いた研究成果において、更に実験症例の蓄積は必要であるが、本素材の組成等に関しては膀胱に対しても十分使用可能なものであると考えている。しかし臨床応用へ向かうためには、前述の通りBAPSを大きく移植した際の収縮をいかに予防するかが課題である。まず、BAPSを大きく移植した場合に強く収縮する原因として、移植直後BAPSの形状が一定の平坦な形状を保てず、折りたたまれた形となってしまうことが考えられた。よって現在、移植したBAPSの形状を保てるような工夫(膀胱内腔に形状を維持するための支えを組み込む等)を施した実験を遂行中であり、ある一定の成果が得られるものと思われる。この形状を維持するための工夫は様々な手法を検討しなければならないと考えているが、もし生体吸収性素材をあらゆる臓器に移植した際に、移植した素材を一定の形状に保つことでより早く良好な組織再生が得られることが明らかとなれば、新たな知見となり得るものと思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験動物としては、より臨床に近いものとしてブタを用いるが、症例によっては長期経過観察をしたいこと、また犠牲死させた後の処理に関する当施設の状況などから、ブタはミニブタを使用したいと考えている。ミニブタは1頭あたり輸送費も含めて17万円程度を要する。1年間に約4,5頭実験を施行すると、80万円前後の経費が必要である。1回の手術実験において麻酔薬、点滴、ガーゼ、清潔な布、術衣等、約2,3万円の費用が消耗品として見込まれるため、手術に使用する消耗品が年間約10万円程度必要となる。 また論文掲載費用として約20万円、国内での発表費用として年間およそ10万円程度かかる見込みである。
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