研究課題/領域番号 |
24791391
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
岡田 克也 埼玉医科大学, 医学部, 助教 (60364775)
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キーワード | 膀胱再生 / 生体吸収性ポリマー / ブタ |
研究概要 |
本研究は、雑種ブタの膀胱壁を部分的に切除した後に、独自に開発した生体吸収性ポリマーシート(BAPS)をパッチ状に移植し、膀胱壁の良好な再生を得ることを目的としている。初期の実験で、およそ4×3cm大の大きさに膀胱頂部を切除し、同等の大きさのBAPSを移植して3か月後には肉眼的、組織学的にもnativeに類似した形で良好な再生結果が得られた。しかし臨床的にはより大きな膀胱壁の欠損が問題となる。よって膀胱壁を大きく欠損させた後にBAPSを移植した場合、同様に良好な再生が得られるかが課題であった。今回、膀胱のおよそ1/2に相当する9×7cm大の膀胱壁を切除し、同等のBAPSを縫合移植する実験を試みた。4週後、移植部の破綻などは認めなかったが、BAPSは約30%に著しく収縮していた。また組織学的にはほとんどが炎症性細胞の塊で、膀胱壁の成分の再生はみられなかった。この著明な収縮では、本来の目的でもある膀胱容量を維持することは困難となる。収縮の原因を検索した結果、BAPSを大きく移植した際、移植直後にBAPSが折りたたまれた形となり、この状態で吸収が進むことが収縮の一因であると考えられた。この問題を解決するため、BAPS移植後に、移植部が膀胱壁のドーム状の形状を維持するような工夫を施した。方法は、網状の柔らかいプラスチック材料を膀胱の形状に見立ててラグビーボール状に形作り、膀胱壁切除後の内腔へ挿入、それを覆うようにBAPSを移植することでBAPSのドーム状の形状を一定に保った。4週後、移植部周囲の癒着は強かったが、移植部は組織学的に移行上皮のみならず筋層まで全層性に良好な再生が認められた。また、プラスチック材料による移植部の損傷などもみられなかった。大きく膀胱壁を欠損させ同部にBAPSを移植した場合、膀胱壁の形状を維持するような工夫を施すことで良好な再生が得られるという結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膀胱壁がBAPSによる部分移植で再生し得る事は既に実証済みであったが、本研究においてはより大きく膀胱壁を切除した際に、膀胱容量を保った状態で良好に再生し得るかが課題であった。初期の実験においては、膀胱壁を全体の約1/2の9×7cm切除し、同等のBAPSを移植したが、移植部は約30%にまで著しく収縮した。平均膀胱容量も、膀胱壁切除後に直接縫合閉鎖した群の容量と有意差なく、十分な膀胱容量を維持できなかった。しかし膀胱の形状を維持するように、膀胱内腔にプラスチック素材の「支柱」を組み込んだ実験を行った結果、4週後という早期の段階で移行上皮から筋層まで全層性に再生が得られ、且つ収縮は約90%程度に留まった。移植した材料を一定の形状に保つことで、より早くより良い組織再生が得られるという知見を得たことは、今回の研究の一定の成果であると考えている。今回の研究における問題点としては、膀胱壁を広範囲BAPSで置換した場合、周囲の癒着が著明であることであり、この問題の解決は重要であると思われる。今後、癒着を防止するための対策を検討することが更なる課題である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の本研究の継続推進にあたっては、今回の課題であるBAPS移植部周囲の癒着を防止するための対策を避けては通れないと思われる。そこで、膀胱壁にBAPSを移植した上から、セプラフィルム®等の癒着防止剤を貼り付けることで、癒着を少しでも防止することが可能かといった追加実験を試みたい。また、今回形状維持目的に用いたプラスチック状の支柱は、膀胱内へそのまま挿入・留置するため、尿道から体外へ取り出すことは不可能であり、臨床応用は現実的とは言えない。よって、膀胱容量近くまでに拡張するバスケットカテーテルまたは尿道バルーンのようなものを利用することで、一定期間膀胱の形状を維持した後に体外へ取り出せるような工夫を試みていきたい。また、本研究で用いたBAPSの臨床応用には、臨床研究における多くの費用と長期間を要することが予想される。生体吸収材料による膀胱再生の臨床応用を目指して、既に臨床応用されているシート状の生体吸収材料を用いて膀胱壁の再生実験を行い、BAPSとの比較検討も行っていきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度からブタを用いて生体吸収性ポリマーシートによる膀胱再生実験を行ってきた。当初の予想以上に移植部の収縮や癒着が問題となり、特に収縮予防の改善法検討に難渋した。結果、一定の成果が得られたと考えているが、成果の取りまとめに時間を要した。現在論文を作成中であるが、校閲なども加えるとさらに時間を要すると思われ、25年度中の論文投稿が難しい状況となってしまった。 英文での論文作成を考えているため、未使用額は、完成した論文の英文添削、論文投稿費、それに関連した消耗品の費用として充てることとしたい。
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