本研究は、ブタの膀胱壁を部分的に全層切除した後に、独自に開発した生体吸収性ポリマーシート(BAPS)をパッチ状に移植し、膀胱壁の良好な再生を得ることを目的としている。初期実験では、およそ4×3cm大の大きさに膀胱頂部を切除し、同等の大きさのBAPSを移植して3か月後には肉眼的、組織学的にもnativeに類似した形で良好な再生結果が得られた。しかし臨床的には、より大きな膀胱壁の欠損が問題となる。よって膀胱壁を大きく欠損させた後にBAPSを移植した場合、同様に良好な再生が得られるかが課題であった。今回、膀胱の約1/2に相当する9×7cm大に切除し、同等のBAPSを移植する実験を試みた。4週後、移植部の破綻や尿漏などは認めなかったが、BAPSは約30%程度に著しく収縮することが分かった。また組織学的にはほぼ炎症性細胞の塊で、膀胱壁成分の再生はみられなかった。この著明な収縮では本来の目的でもある膀胱容量を維持することは困難となる。収縮の原因を検討した結果、大きなBAPSを移植した際は、移植直後にBAPSが折りたたまれた形となり、この状態で吸収が進むことが収縮の一因だと考えられた。この問題を解決するために、BAPS移植後に移植部が膀胱壁のドーム状の形状を維持するような工夫を施した。方法は、網状の柔らかいプラスチック材料を膀胱の形状に見立ててラグビーボール状にトリミングし、膀胱壁を大きく切除した後の内腔へ挿入、それを覆うようにBAPSを移植することで移植部の形状を一定に保った。4週後、移植部周囲の癒着は強かったが、BAPS移植部は移行上皮のみならず筋層まで全層性に良好な再生所見が認められた。また、プラスチック材料による移植部の損傷や迷入も見られなかった。大きく膀胱壁を欠損させ同部にBAPSを移植した場合、膀胱壁の形状を維持するような工夫を施すことで良好な再生が得られるという結果を得た。
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