研究課題
がん細胞における糖の取りこみ増加を利用したFDG-PETが開発され、臨床上極めて有用な検査として知られているように、がん細胞の生存において、エネルギー代謝機構の変化は極めて重要である。本研究は、ヒト肝細胞癌・胆管細胞癌の臨床検体組織に対して、新たに開発されたマトリックス支援レーザー脱離イオン法顕微質量分析イメージング(MALDI-IMS)を用いて新たな組織臨床病理検査への応用、新薬の開発といった臨床的意義の探求を目的としている。分析化学と組織形態学の融合による画期的なアプローチであるMALDI-IMSは、生体組織切片を溶解物化することなく、空間情報を保持したまま質量分析を行い、得られたスペクトル群から任意のイオン強度の分布を画像化することが可能である。これにより、検出対象分子に対する抗体やプローブ物質がなくても、局所分布様態を把握できる。当教室では、術前に患者の同意を得てから肝腫瘍の臨床検体を採取し、全例凍結保存を行っている。共同研究者である医化学教室は、質量顕微鏡法における空間特異的情報検出ソフトの開発に携わっており、豊富な顕微質量分析イメージングのデータベース、解析のノウハウを所有しているため、主にがん部、非がん部の代謝中間体の比較検討イメージングを初めに行い、がん代謝リプログラミングの動態を検証している。肝炎ウィルスを有する検体に関しては管理体制が整っていないため、検体数が限られている中でNASHの肝細胞癌検体や胆管細胞癌の検体に対して、遺伝子発現、タンパク発現の検討を行い、がんの増殖、浸潤、転移、EMT、幹細胞性等と、代謝リプログラミングの結果の比較検討を進めている。そして、臨床的意義を検証して新たなバイオマーカー、画像診断検査プローブ、病理組織診断法の候補分子や新規治療戦略の分子標的候補の画期的な探索をめざしている。
3: やや遅れている
我々の研究協力者である医化学教室が、質量顕微鏡法における空間特異的情報検出ソフトの開発に携わっており、豊富な顕微質量分析イメージングのデータベース、解析のノウハウを所有しているため、我々が採取した検体を用いて、主に癌部、非癌部の代謝中間体の比較検討イメージングを初めに行い、がん代謝リプログラミングの動態を検証する。当教室では年間100例近くの肝切除を行っているが、感染制御の面を考慮すると、肝炎ウィルスをetiologyとした肝癌の検体を扱うことができず、さらに術前に患者本人からの同意を得た上で、臨床検体を採取しているため、検体数は非常に限られている。また、検体採取にあたっても癌部と非癌部の境界領域から採取するため、腫瘍および切除肝に十分なvolumeがないと解析できない。そのため、実験状況がやや遅れていると判断した。
我々の肝切除症例数が増加しており、また、NASH肝癌および肝内胆管癌の症例数も増加していることから平成25年度の計画内容を継続し、臨床検体の数を増やすことは可能と考えている。そして組織切片を用いたHE染色、免疫染色を行い、従来法における臨床的悪性度、細胞増殖を評価する。さらに、代謝リプログラミングと遺伝子・タンパク発現との関連性の強固な証拠、再現性、普遍性を検証する。その得られた知見をもとに臨床応用も検討している。がん特異的代謝中間体とがん診断、悪性度を評価し、新たな診断的バイオマーカーや治療標的となる代謝経路を検索する予定である。そこでバイオマーカーを同定できれば、バイオマーカー候補となる代謝物に対して、腫瘍組織だけでなく血液、尿などの体液中の濃度を測定し バイオマーカー候補を探索することも視野に入れている。さらに治療標的分子の候補については、既知の抗がん剤の代謝経路への影響、ならびに遺伝子発現と代謝リプログラミンの関連性から導かれる新規分子治療標的としての可能性を検証する。
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