研究課題
大動脈瘤は、原因不明の局所的慢性炎症により壁の脆弱化し破裂に至る。大動脈瘤組織は、炎症細胞による組織破壊と血管平滑筋による組織修復が混在し、大動脈瘤の制御には、破裂の抑制のみならず修復の促進が必要と考えられる。本研究では、血管平滑筋による組織修復に着目し、ヒト大動脈瘤組織の平滑筋細胞ではSTAT3が活性化していることから、平滑筋細胞におけるSTAT3の役割に注目して血管修復機構の解明を目的に研究を進めた。(ヒト大動脈瘤組織を用いた検討)免疫組織化学によりヒト大動脈瘤組織におけるSTAT3の活性化を認めた。(マウス大動脈瘤組織を用いた検討)大動脈周囲への高濃度塩化カルシウム塗布で惹起する大動脈瘤モデルを用いて平滑筋におけるSTAT3の活性化、平滑筋細胞の増殖やアポトーシスを、細胞増殖のマーカーKi67やアポトーシスのマーカーTUNELの多重免疫染色を用いて観察した。炎症惹起後急性期のSTAT3の活性化に一致した平滑筋細胞の増殖やアポトーシスを認めた。(遺伝子操作マウスを用いた検討)平滑筋特異的にSTAT3活性化抑制因子であるSOCS3及びSTAT3をノックアウトしたマウスを作成し、大動脈瘤モデルを作成した。肉眼的な腹部大動脈瘤の形成は、いずれのノックアウトでも野生型と同等で、平滑筋特異的なSTAT3操作は、実験的大動脈瘤モデルの形成に影響しないことが明らかとなった。そこで、更なる血管負荷のため、BAPNとアンジオテンシンIIを持続投与したところ、平滑筋特異的STAT3ノックアウトでは、野生型よりも大動脈解離が重症化することを見いだした。以上のように、本研究では、大動脈瘤における血管修復機構の解明には至らなかったが、大動脈解離の病態では、平滑筋細胞におけるSTAT3が重要な役割を果たす可能性を示唆する新たな知見を得ることができ、分子メカニズム解明のため研究を継続している。
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Scientific Reports 4
巻: 4 ページ: 4051
10.1038/srep04051