CD4陽性T細胞のサブセットである制御性T細胞(regulatory-T cell :Treg)は、癌の微小環境において、免疫抑制的に働くことが明らかになってきた。生体ではエネルギー代謝の際、細胞内に過酸化水素が発生する。エネルギー代謝の亢進している癌細胞からは、多量の過酸化水素が産生されている。過酸化水素は活性酸素の一種であり細胞障害性を有している。したがって、過酸化水素が制御性T細胞を含むT細胞に障害を与えている可能性がある。一方、制御性T細胞が癌微小環境において増加していることが知られているが、このことは、制御性T細胞の過酸化水素に対する感受性が低いことを示唆する。そこで、平成26年度は、この癌微小環境の中で過酸化水素と制御性T細胞の関連を検討した。方法は、ヒト食道癌組織を用いフローサイトメトリーと免疫染色で、過酸化水素の産生量と制御性T細胞のアポトーシスの程度を観察した。 結果として、腫瘍浸潤制御性T細胞の数と過酸化水素の産生量は、病態の進行とともに増加していた。制御性T細胞のアポトーシスの程度は、その他のT細胞(conventional T cell)に比較して軽度であり、さらにconventional T cellのアポトーシスの程度は過酸化水素の産生量と正の相関関係を示したが、制御性T細胞のアポトーシスは過酸化水素の産生量とは関係しなかった。これらの結果から制御性T細胞はconventional T cellに比較して、癌腫が産生する過酸化水素に対して感受性が極めて低いことが明らかになった。 この結果から、癌の免疫治療においてnegative factorである制御性T細胞とpositive factorであるconventional T cellの比率を後者に多く持ってゆくためには、癌微小環境の中での過酸化水素を除去する必要があり、新たな治療戦略となり得る。
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