本研究では、炎症性大腸発がんの発生と進展における抗酸化因子チオレドキシン(Thioredoxin:TRX)の制御作用機序を検討した。申請者は以前の研究でTRXがMIFなどの炎症性サイトカインを抑制することで、気道炎症を抑制する事を明らかにしてきた。大腸炎症に伴う大腸発がんにおいて炎症性サイトカインが関与している事から、TRXが発がん過程にいかなる影響を及ぼしているかを検討したところ、TRXは発がんを抑制するが、生じた腫瘍の進展を促進する可能性を見出した。TRX-Tgマウスで観察された腫瘍数の減少と腫瘍の大型化に着目し、TRX-Tgマウス と野生型マウスそれぞれに、発がんイニシエーターであるアゾキシメタン(AOM)を腹腔内前投与しデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)反復投与することで炎症性大腸発がんモデルを作成し、このモデルから大腸や腸間膜リンパ節を採取し、リアルタイムPCR法を用いて腫瘍発生時期における炎症や発がんに関与する遺伝子の発現パターンを解析した。その結果、TRX-Tgマウスの大腸では野生型マウスに比べMIFの発現が高まり、MIF以外の炎症性サイトカイン、ケモカインの発現は低下していることが明らかになった。この結果からTRX-Tgマウスでは腫瘍形成に関与する炎症性サイトカインの発現低下から発がんが抑制される一方で、MIFの産生が高まることで腫瘍の生存と増殖が促進され大型化したことが示唆された。現在、経時的にサンプルを採取し詳細な解析を行っており、TRXによる発がん抑制とMIF、IL-13産生抑制の関与ならびに、TRXによる腫瘍の進展促進が増殖促進あるいはアポトーシス抑制に起因するものかを検討している。
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