研究実績の概要 |
肝細胞癌の肝移植後における再発時期は、これまでの我々の研究から2年以内に再発を認める症例が大多数を占める。このため、本研究では、肝移植後の術後早期からのエベロリムスの内服を開始し、エベロリムスの血中濃度をコントロールすることにより、移植後の拒絶反応を抑え、感染症に罹患しない至適濃度で行う。その後外来では3ヶ月ごとの頭部CT、胸腹部CT、骨シンチグラフィー等により再発の検索を行い、術後2年間経過観察することにより、再発の抑制効果を判定するものと考えている。 結果として、平成24年度には成人肝移植18例を行い、そのうち肝細胞癌症例6例、ミラノ基準外症例はなく、平成25年度には32症例中肝細胞癌症例7例、ミラノ基準外症例2例、エベロリムス症例3例、平成26年度には22症例中肝細胞癌症例11例、ミラノ基準外症例2例、エベロリムス症例0例であった。肝細胞癌症例24例中23例が生存、外来にて経過観察中であり、現在、いずれの症例においても再発は認めていない。また、血液学的所見では、腫瘍マーカー(AFP,PIVKA-II)や、移植後の免疫細胞(CD4/8,B細胞,NK細胞)などにおいても、エベロリムス投与、非投与群では有意差は認めなかった。また、エベロリムス効果を見るためのVEGFなどのタンパク質発現も投与、非投与群のおいても明らかな有意差を認めなかった。しかし、投与群ではミラノ基準を逸脱しているにも関わらず、再発を認めていないため、癌再発抑制効果を伺わせる所見であった。その他の所見として、拒絶反応の発生頻度や、感染症の罹患率などにも有意差を認めることなく、安全性に関しても特に問題なく使用できると考えられる。 また、同時に基礎研究として、エベロリムスの効果を検証するためにラットの肝癌移植モデルを確立し、癌再発抑制効果に関しても現在進行中である。
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