研究概要 |
教室では転写因子を用いたリプログラミング手法を大腸癌細胞株に応用することによって悪性度が低下することを報告した(Miyoshi N, et al. PNAS 2010)。この手法においては転写因子に癌遺伝子であるc-Mycを含むこと、ベクター等により導入する必要があることから、技術的に閾値が高く、この問題点を解決する方法としてmiRNAに着目し、ES細胞とiPS細胞のmiRNAの発現の網羅的解析を通じて、共通に発現するmiRNA(miR-302, miR-369, miR-200c)を導入することで体細胞のリプログラミングに成功したことを報告した(Miyoshi N, et al. Cell Stem Cell 2011)。 本年度の研究実績の概要としては、まず肝癌細胞株においてこれらリプログラミング関連miRNA(miR-302, miR-369, miR-200c)の発現を確認した。参考値としてヒト多能性胎生期癌(N-TERA2)を用いた。いずれのmiRNAの発現においても細胞株間で差異を認めた。miR-302においては他のmiRNAとは異なり、N-TERA2と比べ、肝癌細胞株では著明に発現が低値であった。 体細胞のリプログラミングにおけるmiRNAの導入プロトコールに添って、肝癌細胞株にトランスフェクション試薬を用いてmiR-302の導入を行ったところ、iPS細胞と形態的に類似したALP活性陽性の細胞塊の出現を認めた。これらの細胞塊においてNanog, Oct3/4などの未分化マーカーの発現上昇を認めた。分化誘導を行うと3胚葉への分化する傾向を認めた。これらの細胞塊は親株と比べ、緩徐な発育、薬剤感受性の改善(5-FU、IFN-α)、アポトーシス細胞の増加を認め、悪性度の低下が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今までの検討からmiR-302を導入したsphereにおいて悪性度の低下が示唆されており、この機序の解明を行うことにしている。miR-302を導入して形成したsphereにおいてはc-Mycの発現が低下していることも一因の可能性があると考えている。悪性度の低下にはmiR-302のターゲットの中に関与している因子があると思われ、その中から因子の選定を行う。またリプログラミング手法を用いることにより薬剤感受性の改善をもたらすことがわかってきた。教室では肝細胞癌のIFN耐性株を保有しており、今後は耐性株での同様の検討を行うことにしている。 癌細胞のリプログラミングにおけるHDAC阻害剤の影響について検討する。これまでのリプログラミングの殆どはES培地を使用しており、その組成はあきらかでない。バルプロ酸(VPA)はリプログラミングの効率をあげたと報告(Huangfu D, et al. Nat Biotechnol 2008;26:795)(Anokye-DansoF, et al. Cell Stem Cell 2011)されており、この培地に代わるものとしてバルプロ酸(VPA)をはじめとした複数のHDAC阻害剤(Vorinostat, Belinostat) を利用する。 動物実験においてもリプログラミング関連miRNAの導入による治療効果を検討する。まず、細胞レベルで同リプログラミングを行った肝細胞癌株を用いて異種移植モデル(皮下)での細胞変化に関する検討を行う。続いて、肝細胞癌異種移植モデル(皮下/肝)に対してリプログラミング関連miRNAとHDAC阻害剤を投与する。投与経路としては局注あるいは超音波下に門注を考えている。投与後の腫瘍の増大速度、生存期間などについて比較検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)悪性度低下の機能解明 悪性度が低下した機序の解明を行うことにしている。miR-302を導入して形成したsphereにおいてはc-Mycの発現が低下していた。悪性度の低下にはmiR-302のターゲットの中に関与している因子があると思われ、その中から因子の選定を行う。 2)耐性株での検討 リプログラミング手法を用いることにより薬剤感受性の改善をもたらすことがわかってきた。教室では肝細胞癌のIFN耐性株を保有しており、今後は耐性株での同様の検討を行う。 1)HDAC阻害剤のリプログラミングへの影響 これまでのリプログラミングの殆どはES培地を使用しており、その組成はあきらかでない。バルプロ酸(VPA)はリプログラミングの効率をあげたと報告(Huangfu D, et al. Nat Biotechnol 2008;26:795)(Anokye-DansoF, et al. Cell Stem Cell 2011)されており、この培地に代わるものとしてバルプロ酸(VPA)をはじめとした複数のHDAC阻害剤(Vorinostat, Belinostat) を利用する。 2)リプログラミング関連miRNAの導入による治療効果(動物実験) まず、細胞レベルで同リプログラミングを行った肝細胞癌株を用いて異種移植モデル(皮下)での細胞変化に関する検討を行う。続いて、肝細胞癌異種移植モデル(皮下/肝)に対してリプログラミング関連miRNAとHDAC阻害剤を投与する。投与経路としては局注あるいは超音波下に門注を考えている。投与後の腫瘍の増大速度、生存期間などについて比較検討する。
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