研究概要 |
教室においてmiRNAを用いた体細胞のリプログラミングに成功したことから、同じプロトコールを用いた場合の肝細胞癌における影響について検討した。まず、導入すべきmiRNAの肝細胞癌株における発現状況を検討したところ、体細胞のリプログラミングで導入したmiR-302、miR-369、 miR-200cのうち、miR-302のみが低発現であったことから、これを中心に導入することとした。体細胞のリプログラミングに準じて同miRNAを導入したところ、iPS細胞と形態学的に類似した細胞塊の出現を認め、アルカリフォスターゼ染色が陽性であった。この細胞塊においては、Nanog、Oct3/4等の未分化マーカーの発現が上昇しており、分化誘導によって、三胚葉の分化マーカーが上昇していた。また、親株と比較し、細胞増殖の抑制、間葉上皮移行の誘導、複数の薬剤に対する感受性の改善、アポトーシス細胞の増加を認めた。続いてメカニズム解析を行った。miR-302の標的遺伝子としては、AOF2, NR2F2, TGFBR2, CDK2などが報告されている。miR-302を導入した細胞塊においては、転写4因子(Oct3/4・Sox2・Klf4・c-Myc)を導入した細胞と異なり、c-Mycの発現が低いことが特徴であった。そのため、上記miR-302の標的遺伝子のうち、c-Mycとの関連が報告されていたヒストン脱メチル化酵素AOF2に着目した。細胞塊ではAOF2の発現低下およびヒストンH3のリジン残基(H3K4)のメチル化を認めた。AOF2の抑制実験では、同様にH3K4のメチル化を認め、さらにアポトーシス、薬剤感受性において、細胞塊と同様の変化を確認した。以上の結果をAnnals of surgical oncologyへ投稿し受理された。今後はヒストン脱アセチル化酵素の影響についての検討および動物実験等による評価が必要と考えている。
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