研究期間全体を通して、分泌型のIL-33 受容体(sST2)が転移を抑制すること、リコンビナントsST2が転移抑制効果を示すこと、ST2が大腸がんの予後予測因子として有用であることを明らかにした。 マウスおよびヒトの大腸がん細胞から作製したsST2高発現または低発現の細胞をマウスに移植した結果、sST2高発現の腫瘍では血管新生および自然転移が抑制されたことから、sST2が生体内で転移抑制に働くことが示された。sST2-Fc融合タンパク質の生体内強制発現あるいはリコンビナントsST2を注入した徐放性ポンプの皮下挿入により血中のsST2を高濃度で維持することでも転移抑制効果が認められ、転移抑制剤としてのリコンビナントsST2の有用性が示された。また大腸がんの組織標本で、原発巣でのST2の発現レベルは同一患者の肝転移巣に比べて有意に高く、ST2は転移予測の指標となることが示唆された。 最終年度にかけて、sST2が炎症性のがん微小環境に及ぼす影響を検討した。sST2高発現の腫瘍組織ではマクロファージの浸潤が抑制されていた。マウスマクロファージRAW264.7細胞を用いた浸潤アッセイにより、sST2はIL-33誘導性の浸潤能亢進を阻害することを明らかにした。またPCRアレイ解析により、腫瘍組織中のTh2サイトカインの発現レベルはがん細胞のsST2発現レベルと逆相関することを見出した。さらに、Th2応答の低下に伴い、sST2高発現の腫瘍組織ではM2マクロファージの割合が減少することを示した。 これまでにsST2とがんとの関係を示す報告は殆ど無く、sST2が転移を抑制することが本研究により初めて明らかになった。またリコンビナントsST2の転移抑制効果、大腸がんの予後予測因子としてのsST2の有用性が示されたことから、今後はsST2を基盤とした治療法や診断法への応用展開が期待される。
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