研究課題/領域番号 |
24791431
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
鬼丸 学 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (80529876)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | NG2 / PDGFRβ / 低酸素環境 / CTGF |
研究概要 |
放射線治療抵抗性を誘導する癌間質細胞のphenotypingに関して、膵癌切除標本から樹立した膵星細胞が発現する様々な表面マーカーについて、主にフローサイトメトリーによって解析を行った。そのうち、特にNG2、PDGFRβを発現する細胞集団が膵星細胞の中に一定の割合で存在することを解明した。このNG2とPDGFRβは共に、血管周囲に存在するとされる間葉系幹細胞ともいわれているperivascular cellの表面マーカーである。次に、磁気ビーズを用いた細胞分離の手法によって、NG2陽性細胞と陰性細胞、PDGFRβ陽性細胞と陰性細胞に細胞群を分離したのち、これらをそれぞれ膵癌細胞株と共培養した。その結果、膵癌細胞株の遊走能および浸潤能はNG2陽性細胞、PDGFRβ陽性細胞との共培養により増強した。このことは、NG2またはPDGFRβを発現する膵癌間質細胞が膵癌の悪性度を高める可能性を示唆するものであり、放射線治療抵抗性を誘導する責任細胞群の1つである可能性がある。また、実際の膵癌切除標本を使用して免疫染色を行うとNG2とPDGFRβは両方とも、主に膵癌細胞周囲の間質に広く発現していることが確認できた。さらに、膵癌微小環境は低酸素環境におかれているため、低酸素環境下での研究も行った。低酸素環境下で培養した膵星細胞は通常酸素条件下で培養した膵星細胞に比べ、膵癌細胞株の浸潤能を高めることが分かった。特にCTGFがその悪性度増強に関与していることが解明できたが、これは放射線治療抵抗性の克服の際にターゲット分子となりうる可能性を示唆するもので、重要な発見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、放射線治療抵抗性を誘導する癌間質細胞のphenotypingおよび機能解明を研究目的に掲げていたが、我々は癌間質細胞の表面マーカーの検討をすすめ、その中から特にNG2、PDGFRβという表面マーカーに着目し機能解析まで行った。NG2とPDGFRβはともにperivascular cellのマーカーとされているが、その一部は間葉系幹細胞であるとする報告もある。我々の研究では、間葉系幹細胞およびその分化細胞が膵癌細胞との相互作用により癌の悪性度を増強する可能性が示唆され、さらなる機能解明を検討している。 また、低酸素環境下にある膵癌と膵癌間質細胞との相互作用などの機能解明を行い、低酸素環境下で培養された膵星細胞は通常酸素条件下で培養されたものに比較して膵癌細胞の浸潤能を促進することが判明した。さらに、その機序として、膵星細胞から分泌されるCTGFが重要な役割を果たしていることを解明した。これは、低酸素環境下における癌間質相互作用を示すものであり、放射線治療抵抗性との関連が強く疑われる。 以上のような研究を本年度は行ったが、おおむね順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
我々はナノ構造体である人工ウイルスを独自に開発したが、このウイルスを用いて研究を進める予定である。この分子は古細菌Methanococcusjannaschii 由来のMj285 が形成する球状構造体に着目して作製され自己組織化の駆動力となる疎水性相互作用を制御し、細胞への侵入と崩壊を実現しており、高い細胞特異性と薬剤送達能力を有している。特定の膵星細胞集団への特異性を高めるために本年度の研究で同定した表面抗原を認識するpeptide を付加し、候補となる責任分子を標的とした薬剤を内包する予定である。また、細胞特異的な生物活性によるキャリアー崩壊システムとともに内包する薬剤の細胞特異的放出機構を強化する。 さらに、作成した人工ウイルスを複数のphenotype の膵星細胞集団や他の正常組織由来間質細胞や線維芽細胞に添加して、標的とする細胞特異的にキャリアーが侵入、崩壊し、内包薬剤が放出されることを確認する。内包薬剤としては,分子標的特異的なインヒビターやsiRNA を用いる。さらに共培養モデルにて標的癌間質細胞集団が癌細胞の放射線治療抵抗性に及ぼす効果に関して検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
蛋白精製キット、qRT-PCR試薬(担当者3名×20万/1-2年目計100万)、ソート用抗体(5万×10本/1-2年目;計100万), Nucleofector用導入試薬(15万×5名/1年目75万)、siRNA(5-7万×5本/名×5名/1年目30万)、shRNA/レトロウイルス作成キット(10万×1箱/名×5名)、マウス等 (5,000×20匹×3グループ×2セット/2年目90万)などの消耗品を経費として予定している。
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