膵癌における放射線耐性の機序解析に関する研究として本年は、HDAC1を中心に検討を行った。HDAC1とはヒストン脱アセチル化酵素の1つで、主にはDNAの転写に関与している。また、これまでの報告にDNAの修復の際にHDAC1が大きく関与していることが指摘された。DNAが放射線照射などによってDouble Strand Breakという致命的な障害を受けることがあるものの、HDAC1の発現が高い細胞ではその修復能力が高くなっていることが判明した。つまり、膵癌においてHDAC1の強発現が放射線照射に対する治療抵抗性を示すこととなる。 そこで、まず膵癌細胞株におけるHDAC1発現について評価したところ、mRNA並びに蛋白質レベルで発現が高いものは放射線照射に対して抵抗性を示すことが確認できた。また、同時にHDAC1の発現が低い膵癌細胞株に放射線を定期的に照射し放射線抵抗性膵癌細胞を作製した。放射線抵抗性膵癌細胞では、HDAC1発現の増加がmRNA並びに蛋白質レベルで確認できた。 そこで、HDAC阻害剤としてのTrichostatin A(TSA)の添加やHDAC1発現抑制としてsiRNAをもともとHDAC1の発現が高い膵癌細胞株や当研究室で作製した抵抗性膵癌細胞に導入して放射線を照射したところ放射線抵抗性の改善を得ることが出来た。HDAC阻害剤に関する臨床治験は現在、他の癌腫リンパ腫等において治療の可能性が示唆されているため、今後膵癌治療においても放射線治療の際にHDAC阻害剤を併用することで治療効果の増強が期待できると考えられた。
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