研究課題/領域番号 |
24791433
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
戸島 剛男 九州大学, 大学病院, 医員 (40608965)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 肝臓 / 肝再生 / オートファジー / 肝切除 / 肝移植 |
研究概要 |
我々は、オートファジーの制御を利用した肝再生治療実用化を目的として、まずは正常肝における再生肝のオートファジーの役割を明らかにした。 具体的には、Cre-loxPの系を用いて、肝特異的にオートファジー関連遺伝子(Atg5)のノックアウト(KO)マウスを作成した。さらに、70%肝切除時の再生肝を経時的に採取し、肝重量体重比、BrdU取り込み率、細胞周期調節タンパク質Cyclin D1の活性、細胞周期S期への移行、血清ALT値などを比較検討することで、オートファジーの役割を明らかにすることができた。 結果としてはまず、電子顕微鏡及びウエスタンブロットによる検討によって、正常肝においてオートファジーは術後1日目をピークに高発現していることが判明した。さらに、オートファジーKOマウスにおいて核の増殖能の低下(BrdU取り込み率の低下)、障害蛋白質の蓄積(p62蛋白質の蓄積)、肝機能の低下(AST/ALT値の上昇、血清アルブミン値の低下)を術後早期に認めた。その一因としては、p21蛋白質に起因する細胞周期の遅延(細胞周期G2やS期の減少、cyclin Dの低発現)や、肝組織中ATPの低下、細胞老化(cell senescence)の促進が考えられた。 この結果は、病的肝(特に、大量肝切除後、脂質代謝異常に基づく脂肪肝・非アルコール性脂肪肝炎・糖尿病など)における再生時のオートファジーの役割解明につながるとともに、病的肝における再生率回復を図るための重要な基礎実験となると確信している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの検討において、上記の通り正常肝における再生肝のオートファジーの役割を明らかにすることができた。具体的には、肝特異的にオートファジー関連遺伝子(Atg5)のノックアウト(KO)マウスをもちいることで、肝再生時にオートファジーが核の増殖能 (BrdU取り込み率)、障害蛋白質の除去(p62蛋白質)、肝機能の維持(AST/ALT値、血清アルブミン値)に強く関わることが示された。予想外にも、それらの原因として、p21蛋白質に起因する細胞周期の遅延(細胞周期G2やS期の減少、cyclin Dの低発現)や、肝組織中ATPの低下、細胞老化(cell senescence)の促進が考えられたことが、本研究による新規発見であるとともに、病的肝における再生遅延の機序解明に深くつながると考えられた。 これらの結果をふまえ、今後は正常肝のみにあらず病的肝(特に、大量肝切除後、脂質代謝異常に基づく脂肪肝・非アルコール性脂肪肝炎・糖尿病など)における再生時のオートファジーの役割解明を深く研究するとともに、病的肝における再生率回復を図るための重要な基礎研究を継続していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
肝再生は古くから組織再生モデルとして様々な面から研究されてきたが、いずれも単独もしくは数種類の遺伝子・蛋白の制御に終始しており、高度に組織化された生命現象である肝再生を十分にコントロールし、臨床応用に至った研究実績はこれまで認めない。一方、オートファジーは細胞内のタンパク質を分解するための仕組みの一つであり、細胞内蛋白質の分解と合成(再構成)に重要な働きを担っており、細胞のストレスに応じて遺伝子・蛋白を大規模に調節する生命現象として機能している。 本研究により、オートファジーという細胞内現象が肝再生という組織のいち現象に深く関わっていることは明らかであり、術後の肝再生制御という命題、つまり肝癌及び末期肝硬変にとって残された最大の関門に対して、行政機関含めた、肝切除・肝移植実施施設が総力を挙げて優先的に取り組むべき課題と考えられる。当面は、当科において総力的に実験系をすすめていく所存である。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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