研究概要 |
本研究において食道癌幹細胞マーカー候補分子であるインテグリンβ3(CD61)の発現が強陽性であるTE8をモデル細胞とした. 癌幹細胞の増殖・分化様式の解析においてEGF, bFGFの成長因子を添加した無血清培地による培養のもとTE8細胞を培養した結果, sphere様の細胞塊が形成されたことにより癌幹細胞の有する自己複製能が示された. 癌の浸潤, 転移に関わるEMT能(Epithelial-to-Mesenchymal Transition)の解析では, 細胞走化性測定装置(EZ-TAXIScan)を用いて細胞の遊走化能を検証した結果, CD61陽性細胞において, 走化能が高い傾向がしめされた. 一方, 標的分子を指標として癌幹細胞の選別とは別に,癌幹細胞の薬剤への抵抗性能を利用し, 抗癌剤への長期曝露による癌幹細胞の純化を行った. 実験に使用した抗癌剤は, 食道癌化学療法において使用されているフルオロウラシを用いた. 食道扁平上皮癌細胞株であるTE10およびTE11において曝露開始より6ヶ月後, 薬剤に対するIC50が42.7μg/mLおよび21.6μg/mLを示し, 親株に比べ有意な抵抗性を獲得した. これらの細胞を用いてmiRNA Arrayを行った結果, 幹細胞活性に関係するmiRNA(miR-200ファミリーもしくはmiR-let7ファミリー)の発現変動が検出された. 癌細胞は, 自己増殖能, 分化能およびストレス抵抗性能を有しており, これらの機能は, 幹細胞の特性と非常に類似している. また, 多くに報告では, ごく一部の少数集団のみが癌幹細胞の特性を有するとされているが, 樹立された細胞株における多くの細胞集団は, 潜在的に癌幹細胞の活性を有しており, 刺激によりその特性が顕在化するものと考えられる.
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