研究課題/領域番号 |
24791451
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
萩尾 真人 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 特任助教 (00623927)
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キーワード | 膵臓外科学 / LC/MS |
研究概要 |
前年度に掲げた研究計画の通り循環血中腫瘍細胞(CTCs)評価につながる新たな知見の獲得を目指した。近年、癌細胞の特長の一つとしてとらえられている上皮間葉転換 (EMT)において、細胞が間葉様に進むのに応じて細胞骨格タンパク質の発現パターンが変化(E-cadherinの発現減弱、vimentinの発現増強)することが明らかになってきたため、これをLC/MSを用いて評価する方法を検討した。各タンパク質を絶対定量することにより、正確なE-cadherin/vimentin比を算出することでCTCの性質評価につながるのではないかと考えたためである。用いたLC/MSは、Thermo Scientific製のAccela/LTQ Orbitrap Discoveryで、前年度のnestinタンパク質定量法確立と同様に、in silicoならびに各タンパク質のリコンビナントタンパク質のトリプシン消化産物の解析により、特異性の高い(他のタンパク質の一部と相同性の低い)ペプチド配列を決定し、それらのリコンビナントペプチドを作成することにした。しかし両タンパク質の全長が比較的短く(E-cadherin; 882 AAs, vimentin; 466 AAs)、特にvimentinにおいては特異性の高い配列が少なかったため、各1つずつペプチド配列を選定しリコンビナントペプチドを作成した。このペプチドをスタンダードとしフラグメントイオンの中で最も高い強度で安定的に検出されるフラグメントを選定し、MRMプログラムを設定した。リコンビナントタンパク質のトリプシン消化サンプルとともに連続分析を行ったところ、両者が等しい検出パターンを示したため、このMRMプログラムの使用が可能となった。今後は、検量線の有効濃度範囲を検討し、さらに実際の細胞のクルードタンパク質でも検出できるか検討していく必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度の達成度は、「③やや遅れている」と考えられる。当初目標としていた「EMTにおける細胞骨格タンパク質の発現パターン変化の解析」を行う上で最重要となるE-cadherinとvimentinのLC/MSによる絶対定量法確立の土台作りを達成できたものの、その後の検量線検討、細胞のクルードタンパク質における検出検討まで進むことができなかった点が判断の根拠である。 やや遅れた理由として、所属研究機関変更に伴う分析機器の変更による、使用調整に手間取ったこと、テーマに関して若干の軌道修正があったことが挙げられる。精密機械であるMSは、製造元が違うとそれを扱うためのアプリケーションも異なり、安定して分析操作ができるまで若干時間を要す。そのような環境変化の中、着目している2つのタンパク質のMRMプログラム設定までは達成できたため「遅れている」との判断はしなかった。前年度のnestinから始まりE-cadherin、vimentinと、安定的にタンパク質絶対定量のためのペプチドMRMプログラムの設定が着実に可能となってきていることは、今後別のタンパク質においてもより効率的にプログラムを設定するための知見と経験が蓄積してきたことを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、若干予定が遅れたもののおおむね研究計画で示した内容を達成できた。次年度はさらにスピードアップして研究計画の全体達成を目指す。 標的としている2つのタンパク質について検量線検討、細胞のクルードタンパク質における検出検討を行ったあと、各種癌細胞におけるE-cadherin/vimentin比を測定し、癌の種類による特長の違いを比較する。さらに、可能であれば細胞周期の各フェーズでのE-cadherin/vimentin比を比較し、CTCのさまざまな状況下でのその値の違いを比較していく予定である。これは、CTCが循環血中に存在している間に細胞の状態が変化していることを想定し、細胞周期の各フェーズでの特長が分かれば検出率向上につながるのではないかと考えられるためである。また、この2つのタンパク質の他にハウスキーピング遺伝子などの絶対定量も同時に可能となれば、セットの違う実験間での絶対比較が可能となり汎用性が高まることも期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
所属研究機関変更に伴う分析機器の変更による、使用調整に手間取ったこと、テーマに関して若干の軌道修正があったことにより研究の進行がやや遅れ、次年度使用額が生じたと考えている。 次年度さらに所属機関が変更になるため、質量分析計をはじめとした各種分析装置の環境整備に充てる予定である。また、各種癌細胞の入手、ハウスキーピング遺伝子などの新たな標的タンパク質のリコンビナントペプチド合成費に充てる予定である。
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