平成26年度は前年度から継続して、LC/MSを用いたタンパク質の絶対定量を検討した。対象としたタンパク質はE-cadherinとvimentinで、いずれも細胞骨格タンパク質である。近年、癌細胞の特長の一つとしてとらえられている上皮間葉転換 (EMT)において、細胞が間葉様に変化するのに応じて細胞骨格タンパク質の発現パターンが変化することが明らかになってきたためである(E-cadherinの発現減弱、vimentinの発現増強)。用いたLC/MSは、所属機関変更に伴い前年度から変更されAcquity UPLC / SynaptG2 (Waters) を使用した。まずは前年度に検討したMRMプログラムの移行を完了するため、LC条件およびMS条件の最適化を行った。SynaptG2はQ-TOFタイプのMSであるため前年度に使用したOrbitrap型MSとはペプチド検出のパターンが異なり、これまでと同様のMRMプログラムでは検出感度が著しく減少し、特にvimentinでは検出が困難となった。そのためペプチド検出パターンの再スクリーニングを行い、新しいフラグメントパターンによるMRMプログラムを用いた検出を試みたが、検出感度の大幅な改善は見られなかった。今後は、引き続きフラグメントパターンを精査し感度の高いMRMプログラムを構築していくのと同時に、他のEMT特異的発現タンパク質、特にvimentinより全長の長いタンパク質における絶対定量法の確立を検討していく。また、LC/MSによる絶対定量法が確立次第、次の目標である膵癌細胞におけるEMT発現タンパク質の発現パターンを評価するために、膵癌以外の癌細胞の発現パターンも解析し比較していく予定である。
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