研究概要 |
昨年度までに得られた肺腺癌におけるアロマターゼ、性ホルモン受容体(ERs,PR),HER2,Ki-67に対する免疫染色の結果と、EGFR,KRAS,BRAF変異解析の結果、更に臨床病理学的因子を元に予後解析を行なった。アロマターゼの発現は染色強度から-,1+,2+,3+の4段階で評価し、-,1+を低発現群、2+,3+を高発現群と定義した。予後調査は基本的には最終受診日の診療記録を元に行なったが、長期に渡り受診されていない患者さんには電話による生存、再発の確認を行なった。予後解析を行うにあたり、外科的に治癒切除を行った症例のみを抽出したところ、現在免疫染色や遺伝子解析が終了している症例のうち150例が該当した。この150例に対し以下のように予後解析を進めた。 1)症例全体での解析:Overall survival (OS)でアロマターゼ高発現群は低発現群に比べ有意に予後不良であった(p=0.039)。Recurrence-free survival (RFS)では明らかな差は認めなかった。 2)EGFR, KRAS遺伝子変異の有無による解析:EGFR野生型群でアロマターゼ高発現群はOS, RFSともに有意に予後不良であった(p=0.005, 0.010)。ERβ発現もRFSにおいて有意に予後不良であった(p=0.031)。EGFR変異型群では予後に有意な差は認めなかった。 3)EGFR野生型肺腺癌の症例における男女別の解析:アロマターゼ高発現群は女性でのみ有意に予後不良であり(RFS:p=0.007)、ERβ発現は男性でのみ予後不良であった(RFS:p=0.051)。 以上から、EGFR野生型群の肺腺癌では、腫瘍内アロマターゼにより産生されたエストロゲンが、ERβを介して腫瘍の発育・進展に関与している可能性が高く、アロマターゼとERβは予後マーカーとして利用できることが示唆された。
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