研究実績の概要 |
昨年度までに免疫染色の解析が終了した検体は157例で、アロマターゼ,ERα,ERβ,PR,HER2の陽性率はそれぞれ88.5%,1.9%,80.1%,2.6%,4.5%であり、72.4%がアロマターゼとERβ共に陽性であった。これらの結果と臨床病理学的因子の間には相関は認められなかった。EGFR,KRAS,BRAF変異解析は351例終了しており、変異率はそれぞれ45.0%,14.1%,1.0%であり、アロマターゼの発現とは相関は認められなかった。 アロマターゼの発現は染色強度から-,1+,2+,3+の4段階で評価し、-,1+を低発現群、2+,3+を高発現群と定義した。これらの結果と臨床病理学的因子を元に予後解析を行ったところ、アロマターゼ高発現群は低発現群に比べ有意に予後不良であった(p=0.039)。次に、EGFR変異の有無別に解析を行うと、EGFR野生型群でアロマターゼ高発現群は有意に予後不良であった(p=0.005)。ERβ発現も無再発生存率においては有意に予後不良であった(p=0.031)。更に男女別解析を行なうと、アロマターゼ高発現群は女性でのみ有意に予後不良であり(p=0.007)、ERβ発現は男性でのみ予後不良であった(p=0.051)。EGFR野生型群の肺腺癌では、腫瘍内アロマターゼにより産生されたエストロゲンがERβを介して腫瘍の発育・進展に関与している可能性が高いことが示唆され、最終年度はこれらの結果を国際学会で発表するとともに論文を作成し投稿した。 さらに最終年度には免疫染色を追加し、症例数を188例に増やして予後解析を行ったが、症例数を増やしても同様の傾向が見られたため、今後はさらに症例数を増やしより詳細な解析を行う予定としている。この研究は、肺腺癌におけるアロマターゼ阻害剤の有用性を裏付ける研究となる可能性があり、非常に有益であると考える。
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