研究課題/領域番号 |
24791455
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐野 厚 東京大学, 医学部附属病院, 登録研究医 (20569834)
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キーワード | 腫瘍外科学 / 肺癌 / マイクロRNA / エピジェネティクス / DNAメチル化 |
研究概要 |
原発性肺癌におけるエピジェネティックなmicroRNA発現状況を明らかにするために,microRNA 687個をゲノム上に再マップし,ゲノム構造より1)CpGアイランド上にあるmicroRNA,2)CpGアイランドの下流1kBPにあるmicroRNA,3)CpGアイランドが第一エクソンにあり,その遺伝子のイントロンに存在するmicroRNAに分類した.DNA脱メチル化剤である5’-aza-dCで処理前後の肺癌細胞株6株での発現状態の変化および肺癌切除サンプルでのmicroRNAの発現の検討を行い,microRNA 34bがDNAメチル化により肺癌で発現抑制を受けること,発現低下とリンパ管侵襲が相関することを明らかにした. またこれらの解析を通じて,microRNA 139が肺癌で発現低下をしていることを見いだした.microRNA 139はmicroRNA 139をイントロンに含むPDE2Aと発現の相関が認められたため,PDE2Aのプロモータ領域の解析を行った.PDE2AのCpGアイランドではDNAメチル化は認められなかった.肺癌細胞株を用いてクロマチン免疫沈降を行ったところ,低発現の細胞株ではPDE2Aプロモータ領域のH3K4メチル化が減少しH3K27メチル化は増加していた.一方,H3K9メチル化と発現量の間には相関は認められなかった.従って,microRNA 139はPDE2Aプロモータのヒストン修飾(特にH3K27メチル化)によって制御されていることが示唆された.さらに,microRNA 139とPDE2Aが低発現の細胞株をヒストン脱アセチル酵素阻害薬トリコスタチンAとH3K27メチル化酵素阻害薬DZNepにより薬剤処理したところmicroRNA 139とPDE2Aの発現誘導が認められた. 肺癌切除サンプルにおけるmicroRNA 139の発現量と臨床病理学的解析を行ったところ,発現低下群で統計的有意差を持ってリンパ節転移および脈管侵襲が認められた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献情報のみでなく,公開されているゲノム情報などのバイオインフォマティックリソースを用いて新たに肺癌の病理学的マーカーとなるmicroRNAを明らかにすることができた.またこのmicroRNAがヒストン修飾を介した発現制御を受けていることが明らかとなった.
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今後の研究の推進方策 |
microRNA 139は肝細胞癌や乳癌など肺癌以外のがんにおいて転移抑制性に機能するとの報告が近年散見される.実際に肺癌切除サンプルにおける解析でもmicroRNA 139の低発現と脈管浸潤、遠隔リンパ節転移の間に相関が認められており,肺癌細胞株を用いてmicroRNA 139の強制発現による機能解析を進める予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
原発性肺癌におけるマイクロRNA139のエピジェネティックな発現制御機序を,肺癌細胞株および肺癌切除サンプルを用いて解析している.これまでの成果を論文として投稿したところ,査読者より追加実験を要請された.そのため,追加実験および論文作成・掲載にかかる費用が次年度に生じることが確実となった. 現在投稿中の,原発性肺癌におけるマイクロRNA139のエピジェネティックな発現制御機序に関する論文において,追加実験および論文作成・掲載に要する費用のために使用する.
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