本研究の目的は致命率が高いとされる人工血管感染に対する再置換術の成績向上である。生体吸収性ポリマーに薬剤を混ぜて徐放する技術を当教室では確立しており、この技術を用いて抗生物質薬剤徐放による感染抵抗性人工血管作成を試みた。抗生物質を含む生体吸収性材料を溶媒として人工血管の含浸モデルを作成した。作成したところ、薬剤徐放そのものは良いが人工血管としての性能が十分でなかった。模擬的縫合を多回数行ったところ、作成された人工血管は厚みが増し針の貫通性が低下し、かつ有機溶媒由来の変化で強度が低下し縫合が容易でないと判明した。有機溶媒と薬剤の比率を変えて調整したが解決困難であった。次期モデルはエレクトロスピニング法を応用し人工血管表面に粉綿状にコーティーングを行った。同じく縫合試験を行った。ハンドリングは向上し、強度低下はみられなかった。ただ容易にコーティーングが剥げてしまい、意図する吻合が困難であった。薬剤徐放が得られても吻合に耐えられなければ臨床応用は困難である。一方、研究を進めるうち、人工血管感染の治療として市販のゼラチンコーティーング人工血管にリファンピシンを含浸させて結合を得て好成績が得られている報告が相次いだ。当方でも学内倫理委員会承認のもと同様の治療を行い高い治療成績を得た。ただ、診断困難な疾患であり、実際は早期診断得られない限り救命は困難である。FDG-PET/CTによる診断能の改善が有用であることを見出し応用報告も行った。結語として吻合に耐えうる性能を有する抗生剤徐放感染抵抗性人工血管は開発困難であったが、FDG-PET/CTによる早期診断とリファンピシンコーティーング人工血管を組み合わせることにより人工血管感染に対する集学的治療の構築が可能であった。
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