肺移植後の5年生存率は他の臓器移植より低く約50%に過ぎない。近年、自然免疫である虚血再還流障害と、獲得免疫である移植肺生着阻害の関係が報告されているが、未だに明らかでない点が多い。これまで、肺移植後の虚血再灌流障害や移植肺生着阻害においてG-CSFによる緊急顆粒球形成が促進因子として重要であることを示してきた。本研究ではマウス温虚血再還流障害モデルやマウス同所性左肺移植モデルを用いて、顆粒球やG-CSFの増加に関わるシグナル伝達経路であるMAPK/ERK経路とJAK/STAT経路に着目し、これらの経路が虚血再灌流障害や虚血再灌流障害に伴う移植肺生着阻害において果たす役割を明らかにし、新しい機序を解明する研究を行った。マウス温虚血再灌流障害モデルを用いたMAPK/ERK経路の検討では、コントロール群に比べ、MAPK/ERK経路を抑制するSPRED2をノックアウトしたマウス群で肺機能が有意に増悪しており、組織学的に肺障害も高度であった。しかし、SPRED2ノックアウトマウスにERK1/2活性阻害剤であるU0216を投与した群では、肺機能は改善し肺障害も軽度になっていた。フローサイトメトリー法でも肺内の好中球浸潤はコントロール群やU0216投与群に比べ、SPRED2ノックアウトマウス群で有意に高値であった。以上より、MAPK/ERK経路の活性化により好中球浸潤が促進され、虚血再灌流障害が誘導されていることが明らかにされた。マウス温虚血再灌流障害モデルを用いたJAK/STAT経路の検討では、JAK/STAT経路を負に制御するSOCS3をノックアウトしたマウス群で、コントロール群やSOCS3トランスジェニックマウス群より肺機能が低下しており、虚血再灌流障害が高度であった。今後もマウス同所性左肺移植モデルを用いた検討により、その機序を解明していく。
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