研究課題/領域番号 |
24791464
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
波呂 祥 九州大学, 大学病院, その他 (90546558)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 原発性肺癌 / 癌幹細胞 |
研究概要 |
原発性肺癌は、我が国の癌関連死亡の第一位であり、転移および再発を来すことが多い。特に再発に関しては、癌幹細胞の概念が提唱され、原発性肺癌では、CD133 などの 癌幹細胞のマーカーが報告されている。我々は、原発性肺癌切除標本を用い、肺幹細胞関連遺伝子の役割およびその新たなシグナル経路の特定することを目的とし、当該年度、以下の研究をおこなった。 (1)原発性肺癌外科的切除症例40症例において、β-cateninをコントロール遺伝子とし、Sox9、CD133、Id2、N-myc、FoxA1のmRNAの発現を調べた。① Sox9:正常肺組織では0.60±0.05、癌組織では0.23±0.44。癌部が有意に(p=0.009)発現していた。② CD133:正常肺組織では0.15±0.28、癌組織では0.69±1.54。癌部が有意に(p=0.0183)発現していた。③ Id2:正常肺組織では1.75±0.17、癌組織では1.10±1.14。正常肺組織が有意に(p=0.0146)発現していた。④ FoxA1:正常肺組織では0.06±0.01、癌組織では0.14±0.11。癌部が有意に(p<0.0001)を発現していた。⑤ N-myc:正常肺組織では0.01±0.01、癌組織では0.04±0.08。癌部が有意に(p=0.0109)発現していた。以上の結果より、Sox9、CD133、FoxA1、N-mycは、癌組織において、mRNAの発現が高いことが示された。 (2)肺幹細胞関連遺伝子の原発性肺癌におけるタンパク発現に関して、免疫組織化学染色染色により原発性肺癌組織におけるId2遺伝子のタンパクの発現を調べた。Id2遺伝子が小細胞肺癌には発現せず(0/6)、肺腺癌の52%(12/23)、扁平上皮癌の14%(2/14)に発現していたが、Id2遺伝子の発現と予後との相関性は、認めなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々は、当該年度、申請書に記載した以下の研究を施行した。 【1】原発性肺癌切除標本における肺組織幹細胞関連遺伝子の発現の有無 (1)原発性肺癌組織における、免疫組織化学染色法を用いたタンパクの発現に関しては、我々は、まず、Id2に関して、免疫組織化学染色法を用いて、原発性肺癌切除症例44症例の組織検体を用いて、肺腺癌の52%、扁平上皮癌の14%に発現し、小細胞肺癌に発現していないことを確認した。さらに、5年生存率および5年無再発生存率に関しては、有意差を認めなかったため、我々は、原発性肺癌切除症例98症例を追加し、5年無再発生存率および5年生存率とを比較・検討を行う方針としている。現在、Id2およびFoxA1に関して免疫組織化学染色法が終了し、現在、局在および陽性率に関して検討している。Sox9に関しては条件検討は終了し、またN-mycおよびCD133のタンパク発現に関しては、条件検討を行っているところである。達成度として遅れている理由として、CD133およびN-mycに関しては、これまで肺癌組織において十分に検討されておらず、免疫組織化学染色法における条件検討が確立していないことが原因と考えられるが、引き続き条件検討を継続する予定である。 (2)mRNAの発現に関してであるが、RT-PCR法にて、発現を調べ、上記に如く、Sox9、N-myc、FoxA1、CD133の遺伝子は、癌部において、非癌部(正常部)よりmRNAの発現が高いことが示した。mRNAおよびタンパク発現との2つの比較・検討を行う予定であったが、免疫組織化学染色法における条件検討に問題があるようであれば、今後はmRNA発現において、予後(5年全生存率、5年無再発生存率)、また腫瘍因子(TNM因子)も含めて臨床病理学的因子との相関性を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度、我々は、Sox9、N-myc、FoxA1、CD133の遺伝子は、非癌部(正常部)との比較を行い、癌部において、mRNAの発現が高いことを明らかにした。今後は、タンパク発現に関しては、Id2、Sox9、N-myc、FoxA1、CD133に関しては、予後と臨床病理組織学的因子との相関性を検討し、その役割を明らかにする。Id2遺伝子のmRNAおよびタンパク発現は、5年生存率および5年無再発生存率との相関性を認めなかったが、さらに原発性肺癌切除症例98症例を追加し、比較・検討を行う方針である。また、予後に有意差が認めなかった場合においても、原発性肺癌幹細胞において、実際にその幹細胞の発現・維持などの役割を担っていると考えられ、タンパクの条件検討が困難と判明した場合はmRNAの発現のみにおいても予後との相関性を検討していく方針である。更に、その役割を明らかにしていくために、これまで報告された予後規定因子(Ki67,bcl2など)のほか、(1)細胞増殖およびアポトーシス、(2)血管新生および浸潤・転移、(3)抗癌剤抵抗性に関して検討を行い、その肺組織幹細胞関連遺伝子が担う役割に関して検討を行う。また、原発性肺癌切除症例において抗癌剤抵抗性試験を施行した症例20症例において、SDI法を用いた以下の薬剤(GEM、CDDP、MTA、5-FU、irinotecan、PTX、Gefitinib) に対する薬剤耐性に関しての解析を追加・検討し、肺組織幹細胞関連遺伝子の発現との相関性を調べる。予定である。【5】肺組織幹細胞関連遺伝子を肺癌細胞株(H1435、H1437、H226、A549、 LK-2、PC9、YM-21、LK87)に導入、あるいは抑制し、細胞の特性の変化肺癌細胞株に対して、遺伝子導入および抑制にて、細胞特性の変化および分子機序の特定を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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