研究課題
若手研究(B)
がん幹細胞は①高い造腫瘍能を示す、②自己複製能を有する、③多分化能を有する癌細胞分画と定義される。我々は、がん幹細胞の①造腫瘍能を司る分子メカニズムを解明するために、新規がん幹細胞関連分子であるバリアントフォームsperm mitochondria-associated cysteine-rich protein (SMCP)の機能解析を進めた。SMCPは正常組織では精巣にのみ発現する精巣関連分子であるが、がん幹細胞にはバリアントフォーム (vt2) が発現する。本研究においては、SMCP遺伝子を安定性に導入することによりSMCP過剰発現肺がん細胞株(LHK2)を樹立した(LHK2-SMCP)。LHK2-SMCPを免疫不全NOD/SCIDマウスに移植すると、陰性コントロールベクター導入株(LHK2-Mock)と比較して、有意に高い造腫瘍能を示した。また、当該現象を確認するために、SMCP特異的siRNAを用いて、SMCP遺伝子をノックダウンした。その結果、SMCP遺伝子ノックダウンLHK2細胞は、陰性コントロールsiRNA導入 LHK2細胞と比較して、有意に造腫瘍能が抑制された。これら、遺伝子過剰発現系および遺伝子ノックダウン系における実験により、肺がん幹細胞に異所性に発現する SMCPが、がん幹細胞の造腫瘍能に深く関わっていることが示唆された。当該結果は、がん幹細胞が有する性格の中でも、臨床上最も問題となる高い造腫瘍能を説明付ける可能性がある分子メカニズムであり、有意な結果であったと考える。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、がん幹細胞におけるSMCPの機能解析を目的としている。平成24年度において、SMCP発現ベクターの構築、SMCP過剰発現細胞株の樹立、SMCP特異的 siRNA のデザインを行った。また、免疫不全NOD/SCIDマウスにおける造腫瘍能評価系安定して機能した。これらの研究ツールは、今後バリアントフォームSMCPの分子機能解析を進めるう上で非常に有用な手段になると考えられる。
がん幹細胞は高い造腫瘍能を示すと同時に、化学療法や放射線といった既存のがん治療に対して抵抗性を有することが知られている。本研究においては、バリアントフォーム SMCPががん幹細胞の造腫瘍能に関わっていることが明らかとなりつつある。また、SMCPは正常組織では精巣にのみ発現する分子であり、その他重要臓器に発現しない。このことは、SMCPが将来分子標的治療の治療対象となり得ることを示唆する。今後の研究において、造腫瘍能というがん幹細胞の非常に重要な性格を司るSMCPを標的とすることにより、がん幹細胞の治療に寄与出来ないか基礎的な検討を進める。また、上記の通り、がん幹細胞は既存の治療法に抵抗性を示す事が知られているので、SMCPが造腫瘍能のみならず、化学療法や放射線療法といった既存の治療法に対する抵抗性に関わっていないか検討する。
平成25年度においては、in vivo 評価系をさらに進める為に、実験動物 (NOD/SCIDマウス)の購入を予定している。また、SMCPの造腫瘍能における分子メカニズムを解明するために、遺伝子発現アレイ、定量的PCRなど分子生物学的なアプローチを行い、SMCPの機能解析を進める。
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