研究課題
若手研究(B)
急性大動脈解離は、大動脈壁が外層と内層に解離する重篤な循環器緊急疾患で、分子細胞レベルでの発生機序に関しては、現在でも十分に解明されていない。microRNA(miRNA)は、細胞内に存在する長さ20~25塩基ほどの1本鎖のnon coding RNA で、複数の蛋白質と複合体を形成し、標的となるメッセンジャーRNA(mRNA)に作用し翻訳を抑制する。様々な遺伝子発現に関与することが注目を集めており、その調節機能は、細胞増殖・アポトーシス・発生と分化・代謝など多岐にわたり、循環器領域でも、急性心筋梗塞後の症例などで、新たなバイオマーカーとして有用性が報告されている。microRNAの急性大動脈解離の病態への関与を究明する本研究では、発病のメカニズムを、臨床検体を使用し、遺伝子・分子レベルでの解析で明らかにし、診断技術の向上と患者予後の改善を目指すことを目的とする。平成24年度の研究計画では、まず、①急性A型解離 ②移植ドナーからの上行大動脈を採取し、両群の組織からmicroRNAを抽出して、RNAシークエンス法でmicroRNAの網羅的発現解析を実施する予定であった。しかしながら、当施設(自治医科大学)での研究プロトコール承認に予想以上の時間を要し、平成25年3月にようやくヒトゲノム倫理委員会の研究計画の承認を得ることができた。その結果、平成24年度に関しては、物品費を含め支出実績がないという状況になった。一方、移植ドナー検体の供与先であるStanford大学では、本研究の学内倫理委員会での承認を得ることができたため、平成24年度には合計6例の心臓移植ドナーから上行大動脈検体を採取することができた。本研究では、両群の年齢・性別・遺伝的背景をマッチさせる予定であるので、平成25年度は両施設で大動脈検体の更なる取得を目指し、可及的速やかに本研究を開始することを目標としている。
4: 遅れている
本研究の進捗遅延の主たる原因は、当施設学内倫理委員会(ヒトゲノム倫理委員会)への研究プロトコール提出の遅れ、及び承認までの長時間を要したことであり、本研究で実際に使用する大動脈検体の採取が、共同研究施設であるStanford大学では開始することができたものの、平成25年度は当施設では行うことができなかった。こちらに関しては、本研究の遅れを真摯に受け止め、今後、研究予定に沿った実験内容の開始に向け、努力していきたいと考えている。
本年度5月から当施設においても、胸部大動脈手術実施症例からの大動脈検体採取を開始した。当施設は、急性A型大動脈解離手術症例は年間約40例程度あるため、今後研究協力同意が得られた症例からは、可能な限り検体を採取していく予定である。また、Stanford大学心臓胸部外科でも今後引き続き、心臓移植ドナー症例からの大動脈検体採取を継続して実施する予定である。平成25年度は、当初平成24年度に実施予定であった実験を行う予定である。具体的には、組織からマイクロRNAを抽出し、下記の実験を行う。(1)RNAシークエンス法によるマイクロRNAプロファイル評価:次世代RNAシークエンス法による網羅的遺伝子解析を予定しているが、予算等の事情から実施困難と判断とされた場合には、代替案としてmicroarray法の使用も検討している。その後、Bioinformatic分析を行い、新規バイオマーカーとなりうる可能性のあるマイクロRNAを同定していく。(2)Real-time PCR法による急性大動脈解離病変部でのmiRNA発現レベルの測定:(1)で同定されたマイクロRNAをReal-timePCR法で測定し、上記プロファイル評価の妥当性を検証する。(3)凍結保存した組織サンプルを使用し、ELISA、Western blottingによる蛋白質レベルでの発現の確認も合わせて行う。
平成25年度は下記内容で研究費を使用する予定である①8lanes HiSeq run:700,000¥ ②miRNA抽出キット:200,000¥ ③Real-time PCR試薬:200,000¥④Bioinformatics解析経費:200,000¥⑤ELISAキット:100,000¥⑥Western blottingキット:100,000¥⑦旅費(研究打ち合わせStanford大学):100,000¥