本研究では、肺癌患者で、KRASが制御する末梢分泌型miRNAを、患者血清よりエクソソームを抽出・解析し、肺癌の有用なバイオマーカーを探索することを目的とした。 術前の血清、病変部とリンパ節切除が行われた110症例の肺癌切除患者を対象とした。病理標本を用いて、Scorpion-ARMS法で腫瘍にKRAS変異が見られるかを解析した。110例中7例(6.3%)にKRAS変異がみられた。KRAS変異がある症例とない症例の病理学的特性を比較し、KRAS変異がある症例は全例腺癌、リンパ節転移はみられなかった。7例中5例が3cm以下の腫瘍径であり、KRAS変異がなく、3cm以下でリンパ節転移陰性腺癌の症例と比較した。その結果、micropapillary pattern(MPP)が見られる症例が、KRAS変異陽性症例で優位に多かった。 MPP症例は、腫瘍細胞間の接着が弱く、転移が多いという報告があり、KRASの変異がMPPの発現に関与しているなら、新しい発見であり、臨床的に大きな意味を持つ。先行実験として大腸癌細胞株で、浮遊培養下に分散傾向を見る実験を施行。その結果、細胞間接着抑制する5%ETOHを加えると、活性化KRASが存在する細胞塊が分散傾向にある事を証明し、変異KRAS陽性細胞塊は細胞間接着が弱い事を示した。この特性は、MPPと類似する特性であり、KRAS変異有り無しの細胞を用いて、細胞塊の分散傾向を観察することで、基礎の方面から細胞接着にKRASが関与しているかを解明する実験になりえる。現在、KRAS変異がある肺癌細胞株から変異KRASを抑制した細胞を作製している。 当初、患者血清を用いたエクソソームの解析を予定したが、KRAS変異症例が少なかった事、KRAS変異症例にリンパ節転移がなかった事より、KRAS変異が有る無しの細胞の培養液中のmiRNAを採取・解析する方針に変更した。
|