研究概要 |
肺高悪性度神経内分泌癌は,小細胞癌と大細胞神経内分泌癌よりなる悪性度の高い組織型であり,肺癌全組織型の約20%を占める.小細胞癌は初回治療時には化学療法が奏効するが,殆どの症例で治療抵抗性を示す.大細胞神経内分泌癌は,非小細胞肺癌の一つである大細胞癌に分類されるため,切除可能であれば初回治療として手術が行われる.しかし,完全切除後も約半数が再発し,腺癌など他の非小細胞肺癌と比較し予後は極めて不良である.近年の研究によれば、癌は腫瘍の進展・増殖の根幹を成すと考えられる未分化ながん幹細胞を頂点とした細胞集団であることが示唆されている.悪性度の高い難治癌である肺高悪性度神経内分泌癌に対し,がん幹細胞を標的とした新たな治療開発を目標として,各種がん幹細胞マーカーの発現および臨床病理学的意義を検討した.病理専門医により肺高悪性度神経内分泌癌と診断された外科切除例105例 (小細胞癌: 60例, 大細胞神経内分泌癌: 45例) の組織切片を用い,がん幹細胞マーカーとされる分子 (Caveolin, Notch, CD44, CD166, SOX2, ALDH1, Musashi1 [MSI1]) の発現を免疫組織学的に検討した.全体では,CD166, SOX2, ALDH1, MSI1 の発現が高頻度であったが,CD166は大細胞神経内分泌癌で,SOX2は小細胞癌で発現頻度が高い結果であった.各幹細胞マーカーのうち,ALDH1の発現は外科切除後の予後と関連しており,原発巣におけるALDH1陽性の肺高悪性度神経内分泌癌は,陰性例と比較し,有意に予後不良であった.ALDH1陽性細胞は微小リンパ節転移巣でも認められ,肺高悪性度神経内分泌癌の転移,予後規定に寄与していることが考えられた.ALDH1陽性細胞は肺高悪性度神経内分泌癌におけるがん幹細胞の候補となりうることが示唆された.
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