研究課題/領域番号 |
24791486
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
齊藤 邦昭 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (50446564)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 神経膠腫 / メチル化 / エピジェネティクス / 網羅的解析 / CIMP / Isocitrate dehydrogenase / 個別化療法 |
研究概要 |
これまでpreliminary に行ったメチル化網羅的解析の結果をさらに体系的に理解するため、症例数及び腫瘍の種類を追加して、Illumina社のInfinium 450K chipを用いた45万個以上のCpGサイトの網羅的なメチル化解析を行った。昨年度までの解析と合わせて、WHOグレードIIからIVまでの神経膠腫98検体、比較対照として正常脳4検体のメチル化網羅的解析を行った。この中には14症例の再発/悪性転化を来した神経膠腫の検体ペアがあり、悪性転化に伴うメチル化の変化についても詳細に解析した。 階層的クラスター分析にて、グリオーマにおけるCpG island methylator phenotype(G-CIMP; Noushmehr et al., Cancer Cell 2010)が同定され、報告と同様に、Isocitrate dehydtrogenase(IDH)変異と強く相関していることが確認された。さらに、悪性転化を来した一部の症例において特徴的なメチル化プロファイルを同定し、The Cancer Genome Atlas(TCGA)で公開されているデータでも同様の結果が得られた。遺伝子発現と統合した解析を行うことで、悪性転化に関与すると考えられる遺伝子を抽出した。 この遺伝子について、メチル化の解析をbisulfite sequencing PCRにて、また遺伝子発現解析を定量PCRにて、タンパクの発現を免疫染色にて解析した。これらのvalidationにおいても、arrayベースの網羅的解析と同様の結果を得た。 神経膠腫の発生や悪性転化の機序の解明につながる発見の可能性があり、さらにepigenetic statusを変えることによる新たな神経膠腫の治療の開発や個別化療法への発展が期待され、治療困難な悪性神経膠腫の根治的治療につながる可能性を秘めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の目的に沿って、メチル化網羅的解析およびクラスター分析によるG-CIMPの同定、さらに悪性転化に伴うメチル化の変化を確認することができた。さらに、TCGAデータでのvalidationがなされ、遺伝子発現との統合解析により、神経膠腫の悪性転化に伴う遺伝子の異常を絞り込むことができた。しかし、平成24年10月、海外のグループより悪性神経膠腫のメチル化プロファイルに影響を及ぼす新たな遺伝子変異(H3F3A mutation)が報告された(Sturm et al., Cancer Cell, 2012)。自験例においても同遺伝子変異の実験を優先して行い、メチル化プロファイルへの影響を調査する必要が生じたため、当初予定していたvalidationのためのMassARRAYなどの開始が遅れた。よって、現在までの達成度としては、「やや遅れている」と評する。
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今後の研究の推進方策 |
網羅的解析により抽出した特定の遺伝子群に関して、当教室に保存されている多くの神経膠腫検体を用いたvalidationを行う。MassARRAYを用いて多数の検体におけるメチル化解析をhigh-throughputに行うことで、効率的に予後や化学療法反応性との関連を明らかにして、有用なメチル化マーカーの同定を行う。 また、脳腫瘍検体に続き、当教室にて樹立済みである腫瘍幹細胞においてもメチル化をはじめとしたepigenetic profileを解析し、脳腫瘍幹細胞における増殖、分化に関わる遺伝子の解明を行う。 腫瘍検体および腫瘍幹細胞におけるepigenetic profileの解析から、悪性神経膠腫の発生や悪性転化に関わる異常を同定し、さらにはepigenetic statusをglobalに変化させる薬剤を用いたり、特定の遺伝子のepigeneticsを標的とした治療法を開発し、個別化療法の確立を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年10月、海外のグループより悪性神経膠腫のメチル化プロファイルに影響を及ぼす新たな遺伝子変異(H3F3A mutation)が報告された(Sturm et al., Cancer Cell, 2012)。自験例においても同遺伝子変異の実験を優先して行い、メチル化プロファイルへの影響を調査する必要が生じたため、当初予定していたvalidationのためのMassARRAYなどの開始が遅れた。よって予定していた研究費を翌年に繰り越し、翌年の研究費と合わせて以下のような使用計画を立てた。 データ解析用コンピューターとして300千円、データ蓄積用ハードディスクに100千円、MassARRAY用試薬として500千円、メチル化網羅的解析費用として500千円、その他試薬に500千円、プラスチック器具に300千円、研究成果発表の旅費として300千円、研究成果発表論文の校閲費として100千円、投稿料に100千円、別刷印刷費に100千円程度を必要とする。
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