研究課題
申請者らは、本研究の目的のひとつである「IDH変異型神経膠腫における細胞内代謝への影響の解析」に対して、平成24年度分の取り組みとして MR spectroscopy から代謝産物の定量解析を行うサードパーティソフトウェア LC model を用いた 腫瘍内代謝評価を試みた。今回用いた LC model では、19の代謝物を定量値として算出することが可能であった。このうち NAAG の スペクトル は 2.015 ppm 付近で、NAA のピークに隠れるように存在しており、LC Model では、正常脳の代謝物解析から得られたアルゴリズムを用いてその定量値を算出することが可能である。対象症例は、2011年4月からの1年間に、脳神経外科にて診療を行った神経膠腫 の症例で MRS 検査を行った 94 検査 (30症例)のうち、摘出標本がえられ、かつ適切な NAA, NAAG スペクトル が得られた、19例 の glioma 症例である。LC model を用いた解析結果と IDH1/2 シークエンス、免疫染色との結果を比較した。主要代謝物である グルコース、グルタミン、グルタミン酸、GPCにおいてはIDH 変異型神経膠腫と非変異型神経膠腫の両群の間に有意な差は認められなかった。ラクテート、イノシトールについては、変異型では低下傾向を示した。これは、腫瘍悪性度が高くなると、これらが上昇するという過去の報告に矛盾しない結果と考えられた。今回の代謝解析の主眼となる NAA では、両群に有意な差は認めなかった一方で、NAAG では、非変異群で 0.362, 変異群では 0.237 と約35%低下していた。今回の少数での検討ではこれらの数値に有意差は認めなかったもの、この違いについては、IDH1 R132H 変異に伴う細胞内代謝環境の変化を如実に反映している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
申請者らは、神経膠腫標本における遺伝子型と患者背景を詳細に検討するため,まず星細胞系腫瘍-乏突起膠腫を含めた多くの組織型の脳腫瘍についてIDH遺伝子変異の頻度や特異度を調べ,その年齢,性,治療反応性(放射線,化学療法),再発率,予後などとの関連性を明らかにする、ということを研究目的として掲げた。これに関して、申請者らは摘出された標本に関して、適宜上述の項目のデータ収集を行っている。腫瘍内代謝の変化の解析については、主に N-acetyl-aspartyl-glutamate (NAAG) に着目し、術前のMRスペクトロスコピー (MRS)を用いた測定により、評価を行っている。従って、概ね順調に進展していると思われる。
遺伝子解析の結果に基づき,IDH遺伝子変異の有無及びその他の遺伝子異常の有無による,神経膠腫グルーピングを行う。この区分は神経膠腫の組織診断と密接に関連しており,申請者らのWHO研究所での研究成果を受けて,次回のWHO脳腫瘍分類改訂に採択される見込みの実際的なものである。これをもとに,IDH遺伝子変異のみならずその他の遺伝子変異と組織診断および予後因子を検討し,遺伝子解析に基づいた病理診断システム,予後予測システムの確立を目指す。
神経膠腫に認められるIDH遺伝子変異は,野生型のIDH1やIDH2に備わっていない新たな酵素活性 すなわち 2HG (2-Hydroxyglutarate)の獲得という特徴をもつことが報告され、また、上述の通り、IDH遺伝子変異により、細胞内代謝物の変化が生じ、 NAAG (N-Accetyl Aspartyl Glutamate)が有意に低下することが報告されている。これらの細胞内代謝物変化ないしそれに伴う環境変化が腫瘍細胞にどのような影響をもたらすのかは不明であり、また、実際に2-HG活性あるいはNAAGを評価した報告はこれまでのところ極めて少ない。申請者らは、星細胞系腫瘍-乏突起膠腫を含めた多くの組織型の脳腫瘍についてIDH遺伝子変異を調べ、治療反応性(放射線,化学療法),再発率,予後などとの関連性を明らかにするべく、引き続き、データ収集を行う。さらに、ペプチドアレイを酵素と基質ペプチドを標的にカスタム化する。すなわち、ペプチドスキャンによるクエン酸サイクル関連蛋白およびリガンド探索のハイスループットカスタムライブラリーを外注により作成し、これらの標的とする酵素の発現量の解析やその基質のスクリーニングを行う。
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