研究課題/領域番号 |
24791502
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
道上 宏之 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (20572499)
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キーワード | 悪性脳腫瘍 / 膠芽腫 / ドラッグデリバリーシステム / ホウ素中性子捕捉療法 / 細胞膜通過ペプチド / ホウ素製剤 / BSH-peptide / がん治療 |
研究概要 |
本申請は「ペプチドを用いたドラッグデリバリーシステム(DDS)」に関する研究である。ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、悪性腫瘍細胞に対してホウ素を取りこませ、中性子照射により、腫瘍殺傷効果を得る治療法である。BNCTは、現在多施設共同研究による臨床研究段階であるが、その課題の中で、本申請は「ホウ素製剤を悪性脳腫瘍細胞内部に、そして、腫瘍選択的にペプチドを用いて運搬し、中性子照射により腫瘍を効率よく殺傷する」ことを主目的とする。ペプチドは、ホウ素製剤を容易に修飾することが可能で様々な機能を付加し、高機能化することができるため、本研究の成果はペプチドベクターを用いた薬剤運搬のための革新的方法となる。しかし以前より、BNCT臨床応用には3つの問題点が指摘されていた。①中性子源として原子炉を使わない安全な施設が必要。これについては、共同研究者の京大原子炉実験所粒子線腫瘍学研究センター長小野らが病院設置可能なサイクロトロン型加速器の中性子源の開発成功により、BNCTが日常医療で利用できる現実性が高くなってきた。②BNCT治療が、実験的な研究レベルであり、病院での一般臨床レベルに達していない点については、私は大阪医科大学脳神経外科の宮武らと共に、集積機序の異なるホウ素化合物(BSHとBPA)を用いて悪性脳腫瘍患者に対しBNCTを施行し、中央生存期間23.5ヶ月という素晴らしい成績を発表した(Kawabata S. et al, J Radiat Res, 2009)。その後、2009年より多施設共同研究の新規診断膠芽腫に対するBNCT臨床研究が開始され私もプロジェクトの一員として参加している。③治療に適切なホウ素製剤の開発に関しては、よりよい化合物開発が望まれ、それによる更なるBNCTの臨床成績の改善が期待される。本研究の中心課題となっている。③を解決するために、タンパク質導入法、細胞膜通過ペプチドを本研究に利用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
BNCTは細胞レベルで腫瘍殺傷する治療法であるため、ホウ素が細胞内に存在するか、細胞外に存在するかで、その効果は著しく変わってくる。我々の研究室では、同じ量のホウ素濃度が、細胞膜上にある場合と核内にある時に、BNCTにより核に与えるダメージは60~100倍程度異なるとの結果を報告した(Michiue H. et al. 2014,Biomaterials )。ホウ素化合物を細胞内及び腫瘍組織内へ導入するため、細胞膜通過ペプチド(Cell Penetrating Peptide: CPP)を用いた。CPPは、ポリアルギニンよりなるペプチドであり、CPPとBSHを結合したところ、BSHは速やかに細胞内へと導入された。さらに、1ホウ素製剤内に含まれるホウ素含有量を高めるために、2個、4個、8個のBSHをペプチドへ結合した。これにより、8個のBSHを連結させたCPP付加の新規のホウ素ペプチド8BSH-CPPが完成し特許を取得した(特願2011-230059)。この8BSH-CPPを脳腫瘍モデル尾静脈より投与し、脳腫瘍部でのホウ素製剤の観察を行ったところ、腫瘍部に一致して、ホウ素製剤が観察される一方、正常脳ではホウ素製剤は観察されなかった。さらに、この製剤をヒト脳腫瘍細胞に投与し、中性子照射を行ったところ、細胞内導入効果の無いBSHと比較して、1/1000の濃度で、細胞増辱抑制効果を認めた。 本研究は、当初の計画以上に進展し、特許取得及び論文作成に成功し、下記の論文に研究申請者がFirst Authorとして掲載された。 Biomaterials. 2014 Mar;35(10):3396-405.The acceleration of boron neutron capture therapy using multi-linked mercaptoundecahydrododecaborate (BSH) fused cell-penetrating peptide. Michiue H et al. 本研究は、さらに臨床応用を考えたホウ素ペプチドを構築・体内薬物動態のためのPETシステムの構築へ発展させるプロジェクトへ進行している。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で臨床可能なホウ素製剤は、ホウ素(B)1個にアミノ酸のフェニルアラニンが結合したBPA(4-Boronophenylalanine, ホウ素フェニルアラニン)とホウ素12個からなるホウ素クラスターBSH(mercaptoundecahydrododecaborate)である。BPAについては、ステラファーマ株式会社を中心に、現在、治験中であり、最も研究・臨床応用が進んでいる薬剤である。その理由として、①正常細胞と比較し腫瘍細胞で多く取り込みがあること、②細胞内に導入される事、③BPA-PETがあり薬物動態評価が容易にできること、④毒性等が無い安全な薬物であること、があげられる。しかし、このBPAホウ素製剤のみで、BNCTを発展させることは困難である。その理由として、①BPAのみでは非常に大量のホウ素製剤が治療に必要であること、②がん細胞の中にはBPAを細胞内に取り込まない細胞があること、③BPAのみの臨床研究で効果が無かった悪性腫瘍があること、などが挙げられる。一方、BSHは、初発膠芽腫で使われており、実際に臨床研究で使うことは可能であるが、①体内薬物動態評価のシステム(PET等)がないこと、②細胞内に導入されないためBNCTの効果が低いこと、③今まだに使ったことが無いこと、などが問題とされており、BSHの汎用化の妨げとなっている。 本研究は、BSHを基にした次世代のホウ素製剤作製及び既存のBSHおよび次世代BSHのPETを用いた体内薬物動態評価のシステム作製である。さらに薬物動態を評価し、BNCTの照射シミュレーションを行うことを目標とし、人に対しBNCT前にマイクロドーズでのPET臨床研究を行い、腫瘍照射シュミレーションを行うことを目標とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
非常に、研究計画が順調に進んだため、当初3年目まで予定していたことの多くを完遂することに成功した。さらに、本研究を臨床応用するために必要な、研究計画を立てることに成功し、本研究で生まれた新規のホウ素ペプチドの体内での薬物動態評価可能な製剤の開発を目指して、現在取り組んでいる。また、ホウ素ペプチドの大量合成システムの構築を目指して、引き続き研究を行っている。 ①臨床応用可能なシンプルなホウ素ペプチド製剤のデザイン及び合成技術の開発をめざす。ホウ素中性子捕捉療法では、大量のホウ素製剤の腫瘍細胞への取り込みが必要である。さらに、臨床応用を考慮した場合、合成方法などについての検討が必要となってくる。 ②新規のホウ素製剤の臨床応用の行うためには、人の薬物動態を評価するPET(positron emission tomograpy、ポジトロン断層法)システムが必要となる。本研究で生まれたホウ素製剤をPET核種として、発展させることを試みる。
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