研究課題/領域番号 |
24791506
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
岩波 純 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90624792)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 血管性認知症 / レニン・アンジオテンシン系 / AT2受容体刺激 |
研究概要 |
高齢者の増加に伴い認知症患者も増加している。さらに、最近では若年者の認知症患者も増加しており、その対策が重要なものとなっている。近年、レニン・アンジオテンシン系が認知症の発症に関与していることが大規模臨床試験により報告されている。我々はアンジオテンシンIIの受容体の一つ2型(AT2)受容体が脳障害時に脳保護作用を持つこと、さらに認知機能にも影響していることを報告してきた。そこで、血管性認知症モデルとして、両総頸動脈狭窄術(BCAS)を用いて慢性脳低灌流モデルマウスを作成し、AT2受容体刺激による認知機能低下予防効果について検討した。 9週齢の野生型マウスにAT2受容体刺激薬(C21)の投与を開始し、一週間後、マウスの両総頸動脈に極小コイル(内径0.18㎜)を留置し、BCASマウスを作成した。BCASマウス作成6週間後モリス水迷路試験を行い空間認知機能への影響を検討した。その後、脳血流量、脳における炎症反応を検討した。また、神経可塑性に重要であることが報告されているNMDA受容体のリン酸化についてマウスの海馬を用いて検討した。 偽手術群に比べ、BCASマウスにおいてプラットフォームまでの到達時間の遅延が認められたが、C21投与群ではその遅延が改善していた。脳血流量もBCASマウスで偽手術群に比べ減少していたが、C21投与群で偽手術群程度まで増加していた。大脳皮質における炎症反応として、TNF-a、MCP-1のmRNA発現をreal time RT-PCR法にて検討したところ、BCASマウスで増加していたものが、C21投与群で減少していた。さらに、NMDA受容体のリン酸化をWestern blot法にて検討したところ、BCASマウスで減少していたものがC21投与群で増加していた。 以上の結果から、血管性認知症予防においてAT2受容体刺激が有効であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
血管性認知症モデルマウスを両総頸動脈狭窄術(BCAS)で作成し、認知機能の低下が認められた。また、このマウスにAT2受容体刺激薬を投与することで認知機能の改善が認められた。この改善効果はBCASによる脳血流量減少の抑制、大脳皮質における炎症反応増加の抑制、さらにNMDA受容体リン酸化減少の抑制によることが認められた。BCASマウスにおいては血液脳関門(BBB)破綻を誘導することが報告されていたため、通常BBBを透過しないEvans BlueをBCAS後投与して検討したが本検討ではBBBへの影響は認められなかった。 実験計画では、AT2受容体刺激とNMDA受容体調節による認知機能低下への影響について予定していたが、AT2受容体刺激のみで偽手術群と比較して同程度まで改善しており、さらにBCASマウスではNMDA受容体のリン酸化が抑制されていたことから、NMDA受容体調節薬を投与することによる相乗効果は期待できないことが予想された。 そこで認知機能低下モデルを糖尿病マウスに変更してAT2受容体刺激、NMDA受容体調節による認知機能への影響について検討した。糖尿病は認知機能低下のリスクファクターであること、さらに糖尿病モデルラットではNMDA受容体のリガンドであるグルタミン酸が過剰に分泌されていることが報告されている。 そこで、糖尿病モデルマウス、KKAyにAT2受容体刺激薬、NMDA受容体調節薬を単独、併用投与して認知能への影響を検討した。投与から5週間後、モリス水迷路試験で空間認知機能を検討したところ、それぞれの単独投与群では無投与群と有意差はなかったが、改善傾向が認められた。併用投与群では、さらなる改善があり、無投与群に比べ認知機能が改善していた。以上の結果から、認知機能低下にAT2受容体刺激とNMDA受容体調節によるクロストークがあることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
両総頸動脈狭窄術(BCAS)マウスにおいてNMDA受容体サブユニットの一つであるNR2B mRNA の発現について検討したところ、偽手術群に比べ低下傾向があり、脳血流量の減少が神経細胞の減少に影響していることが考えられる。しかし、AT2受容体刺激がこの発現減少を回復することはなかったが、AT2受容体刺激がNMDA受容体のリン酸化を増加させていたことから、神経伝達に何らかの影響があることが考えらえる。さらに、糖尿病モデルマウスでの検討で、AT2受容体刺激とNMDA受容体調節薬を単独および併用投与したマウスで海馬におけるアセチルコリンの分泌量をマイクロダイアリシス法で検討したところ、それぞれ単独でもアセチルコリンの分泌量が増加していたが、併用投与することでさらに増加していた。以上の結果から、AT2受容体刺激と神経伝達物質との関連について検討を進めていく予定である。 また、我々のこれまでの検討から、糖尿病モデルマウスでは血液脳関門(BBB)が破綻していることが明らかとなっている(Hypertension 59, 1079-1088, 2012)。BBBの破綻は脳実質への物質の流入に抑制がなくなり、様々な疾患の発症に関与することがわかっている。また、この検討ではアンジオテンシンII1型受容体阻害剤(ARB)を投与することでBBBの破綻が改善すること、さらに認知機能の減少を改善することを報告している。しかし、AT2受容体刺激のBBBへの影響については報告されていない。そこで、糖尿病モデルマウスにおけるBBBの破綻へのAT2受容体刺激の効果について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験における設備などは現在研究室にあるもので賄えるため、備品購入の必要性はない。研究費は主に消耗品の購入に使用する予定である。具体的には、野生型マウスおよび糖尿病モデルマウスの購入・飼育費、両総頸動脈狭窄術(BCAS)を行うための極小コイルの購入、マイクロダイアリシス関連の器具・試薬の購入、Real time RT-PCRでの器具・試薬の購入、ウェスタンブロットでの試薬の購入、免疫染色など組織標本の作製のための器具・試薬の購入などである。また、学会での研究成果の報告のための旅費、および雑誌への投稿の際の外国論文校正費、論文投稿・掲載費に研究費の使用を予定している。
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