研究課題/領域番号 |
24791507
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
杉本 香奈 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教(特定) (00581034)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 脳梗塞 / NG2コンドロイチン硫酸プロテオグリカン / マイクログリア / TGFβ1 |
研究概要 |
ラット一過性中大脳動脈閉塞による脳梗塞巣核心部には、マクロファージマーカーのIba1とオリゴデンドロサイト前駆細胞マーカーのNG2コンドロイチン硫酸プロテオグリカンを同時に発現する、単球由来の特殊なマクロファージであるBINCs (Brain Iba1+/NG2+ Cells)が多数集積する。BINCsは多種多様な生理活性物質を発現するが、IGF-1やHGF等の神経保護的ペプチドの発現レベルが高く、実際に重症ラット脳梗塞モデルの病巣にBINCsを移植すると予後が大きく改善することが分かっている。 一方、虚血病巣核心部を取り囲む周辺領域には、活性化マイクログリアが存在する。特に、核心部にごく近い領域では、マイクログリアがNG2を発現し、更に貪食細胞マーカーであるCD68を発現していた。これらのNG2陽性マイクログリアは、骨髄移植実験から内在性マイクログリア由来であると考えられた。更にアポトーシス神経細胞を認識する受容体であるTREM2を発現し、実際にNeuN陽性の神経細胞片を細胞内に取り込んでいる像が観察された。核心部から距離を経るにつれ、NG2の発現は失われ、次第に活性化マイクログリアは見られなくなった。 梗塞巣核心部から放出される生理活性物質の濃度勾配がこのようなマイクログリアの反応を産み出しているものと考え、梗塞巣で発現量が多いTGFβ1に着目している。一次培養マイクログリアにTGFβ1を添加するとNG2の発現が誘導され、この作用はTGFβ1阻害剤で抑制された。BINCsの培養上清を添加しても同様の結果が得られた。また、TGFβ1はマイクログリアのTREM2-mRNAの発現量も増加させた。以上の結果からNG2がマイクログリア/マクロファージによる貪食作用のいずれかのプロセスに関与し、NG2発現誘導因子としてTGFβ1が関与していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのところ、NG2陽性マイクログリアの形態的特徴、またペナンブラ領域の変性神経細胞の貪食像を観察した。一次培養マイクログリアを用いた実験からこれらの反応を産み出している物質がTGFβ1であり、NG2発現誘導そして貪食作用のいずれかのプロセスに関与していることを突き止めた。これらのことから、研究計画の達成度については申し分ないと考えている。しかしながら、このNG2陽性マイクログリアが神経細胞保護的であるか否かはまだ明確にできておらず、現在検討を進めている。 上記の研究を遂行する過程で、梗塞巣核心部から放出される生理活性物質のひとつにサイトカインの一種であるIL-18が非常に高く発現していることを見出した。その発現量はTGFβ1よりも高く、IL-18が梗塞巣周囲のグリア細胞および神経細胞に何らかの影響をもたらしているのではないかと考えており、予想外の成果となっている。
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今後の研究の推進方策 |
NG2陽性マイクログリアが神経保護的であるか否かが、現在得ている結果に加えてより強く示すことが喫緊の課題である。そのため、虚血ストレス条件(低グルコース、低酸素)下で、NG2陽性マイクログリアとグリーンラット由来神経細胞を混合培養する。その後、神経細胞の生存状態(免疫染色、イムノブロット)や神経突起の伸長レベルを測定することにより評価する。 この結果を踏まえて、in vivo実験において梗塞巣から産生されるTGFβ1の量を制御することによりNG2陽性マイクログリアの発現頻度を変化させ、MRIを用いて梗塞巣体積の測定、ロータロッドテスト(運動/平衡機能)、オープンフィールド(運動、高次機能)、受動回避試験(学習機能)を実施する。その後、灌流固定し凍結切片を作成、免疫染色を行い、梗塞巣及びペナンブラ領域の病理を詳細に検討する。これらのことからNG2陽性マイクログリアを対象とする新たな治療法の目途が立つ。その結果を受けて、TGFβ1またはその阻害剤の投与量や投与スケジュールの適正化を目指す実験を行う。 また、上記研究テーマに加え、TGFβ1同様に梗塞巣核心部において高い発現が認められたIL-18のペナンブラに存在するグリア細胞や神経細胞へ及ぼす影響についてはそれ自体が独立しうるテーマであるが、BINCsの機能を知る上で不可分でもあるので、可能な限り連動させて、より意義深く、生体での実態に即した解析とすべく善処する。
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次年度の研究費の使用計画 |
設備品等は全て所属研究機関の既存設備を使用するため、研究費は細胞培養関連一式、実験動物、生化学研究用試薬、各種抗体購入費および成果発表費用(国内学会参加、外国語論文校正費用、論文印刷費等)として使用する。
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