研究課題/領域番号 |
24791508
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
川西 裕 高知大学, 教育研究部医療学系, 助教 (90527582)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 悪性神経膠腫 / スピルリナ / 免疫療法 |
研究概要 |
研究の目的:Spirulinaはラン藻類の一種であり、その細胞外膜は強力な免疫賦活作用をもつE. coli LPSに類似の構造を有するとされ、Spirulina CPS (complex polysaccharide) はE.coli LPSと同様にTLR (Toll-like receptor) を介した作用で免疫系を賦活すると報告されている。本研究ではマウスグリオーマ細胞株RSV-Mを用いて悪性神経膠腫に対するSpirulina CPSの作用機序について検証することを目的とした。 研究方法:RSV-Mを正常C3H/HeNおよびTLR4欠損C3H/HeJマウスに皮下移植し、Spirulina CPS投与群とE.coli LPS投与群に分け経時的に腫瘍径、血清中サイトカイン測定し比較した。獲得免疫について調べるため、腫瘍摘出後の再移植実験も行った。 結果:C3H/HeNマウスにおいてSpirulina CPSはE.coli LPSと同様にTLR4を介して自然免疫を賦活することで抗腫瘍免疫応答を増強することを解明した。さらにC3H/HeNマウスにおいてSpirulina CPS投与群では獲得免疫の形成も認められ、Spirulina CPSによって細胞性免疫応答も賦活されることが確認された。Spirulina CPSの抗腫瘍効果にはIL-17の分泌抑制が重要な役割を果たすことが示唆された。腫瘍組織の免疫組織学的解析でSpirulina CPS投与群では有意に血管新生が抑制されることが見出された。 本研究の意義:Spirulina CPSはグリオーマに対して自然免疫及び細胞性免疫応答も賦活することで抗腫瘍免疫応答を増強することを解明し、抗腫瘍効果の発現にはIL-17の分泌制御による血管新生の抑制が関与することも見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、Spirulina CPSのグリオーマに対する抗腫瘍効果及び作用機序を解明することであった。平成24年度の研究結果により、Spirulina CPSが TLR4を介した自然免疫系を活性化しグリオーマに対し抗腫瘍効果を発揮することを突き止めた。 グリオーマに対する抗腫瘍効果を担うエフェクター細胞を同定する目的で、自然免疫系の免疫担当細胞であるNK細胞やマクロファージのマーカーであるasialo GM1に対する抗体をSpirulina CPSとともに投与すると対照群に比べて早期に腫瘍増殖が認められ、Spirulina CPSの抗腫瘍効果にはNK細胞やマクロファージなどが関与していることが示唆された。Spirulina CPSでは獲得免疫も賦活されたため、Tリンパ球のマーカーであるCD4,CD8に対する抗体をSpirulina CPSとともに投与したところ、anti-asialo GM1 Ab 投与群にやや遅れて腫瘍増殖を認め、Spirulina CPSの抗腫瘍効果にはCD4陽性,CD8陽性Tリンパ球も関与していることが示唆された。Spirulina CPSはグリオーマに対して自然免疫のみならず細胞性免疫応答も賦活することで抗腫瘍免疫応答を増強することを解明した。 IL-17は血管新生を促進することで腫瘍増殖に関与すると報告されており、血管内皮マーカーであるCD31に対する免疫染色を行い血管新生について評価した。Spirulina CPS投与群では、対照群に比較して有意に血管新生が抑制されている所見を認めた。Supirulina CPSの抗腫瘍効果にはIL-17の産生抑制による血管新生の抑制が関与しているものと考えられた。抗腫瘍効果の発現にはIL-17の分泌制御による血管新生の抑制が関与することも見出した。
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今後の研究の推進方策 |
脳内に移植したグリオーマ細胞に対する抗腫瘍効果の検討:グリオーマは脳腫瘍であるため、Spirulina CPSを投与することにより脳内に移植したグリオーマ細胞に対しても抗腫瘍効果を発揮することを確認する必要がある。マウス脳内にRSV-Mを移植し、Spirulina CPS投与群と対照群に分け腫瘍抑制効果があるかを検討する。脳内の腫瘍に対する治療効果の評価は、従来マウスの脳を薄切し免疫組織化学的手法を用いることが一般的であったが、本学ではin vivo imagerが導入されており生体での腫瘍細胞の動態や治療経過を観察可能である。蛍光蛋白を遺伝子導入したRSV-M細胞株も作成済みである。 ワクチン療法のアジュバントとしての可能性の検討:WT1ペプチドを標的とした膠芽腫に対する腫瘍抗原特異的な癌ワクチン療法はその有効性が報告されており、ワクチン療法は副作用も少ないことより現在の標準治療に併用されることが期待されている。 現在ワクチン療法のアジュバントとして用いられる物質は主にIFN-γを産生することで抗腫瘍免疫活性を上昇させようとするものが大半である。ただし、我々の実験結果によればIFN-γはグリオーマには無効であった。脳腫瘍に対しては異なるアジュバントの開発が必要ではないかと考えられる。Spirulina CPSはIL-17の産生を制御することで脳腫瘍に対しても抗腫瘍効果を発揮することが明らかとなった。さらに現時点でIL-17を抑制する物質は報告されていない。当科で樹立したヒトグリオーマ細胞株に、WT1ワクチンで感作した血清を加え、そこにアジュバントとしてSpirulina CPSを加えた群と加えない群でCTL活性に有意差が出るかどうかについて検討する。また同様の手法で現在用いられているアジュバントとの比較も行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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