臨床に利用されている分子標的薬剤が細胞内シグナルへ及ぼす影響を解析する為、代表的な悪性脳腫瘍である神経膠芽腫細胞株(CCF-STTG1、IN351、T98G、U251、U373、U87など)のEGFR、VEGFR、GEP100などの分子の状態を評価した。各種細胞株のcell lysateを作成し、各々の蛋白質の発現量を評価したところ、これら細胞株では、matrigel invasion assayでの浸潤性と概ね相関したGEP100の蛋白発現量が観察された。siRNAを用いてGEP100の蛋白質発現を抑制することで、神経膠芽腫細胞株の浸潤能を抑制する知見を得ていたが、詳細な評価の結果、GEP100の機能として、細胞の生存能力、細胞運動能には変化を与えないことが確認された。また、動物生体内での機能評価の為、マウスの定位脳座標装置を用いた神経膠芽腫細胞株のヌードマウスの非機能脳皮質に移植するモデルマウス作成を開始し、移植が可能であることを確認した。その他、条件検討を行っていた臨床検体の免疫染色では、神経膠芽腫にGEP100の発現も確認された。腫瘍組織内の低酸素環境、血管新生、免疫細胞の集積、ストローマ細胞の活性化などといいた微小環境の変化による浸潤形質の誘導といった多様性もあることから、腫瘍の部位によっても、各分子の発現様式は多岐に及ぶと考えられる。GEP100とRTKの発現部位が相関する傾向が観察され、神経膠芽腫においてGEP100は、分子標的薬の感受性に対するより有効なバイオマーカーとなる可能性が示唆された。今後、知見を深める為、臨床経過(生存期間)との相関について多変量解析等を用いて検討するなど、より詳細な評価が必要である。
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