研究課題/領域番号 |
24791513
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
杉野 寿哉 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (80596164)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | SIRT1 / グリオーマ / 腫瘍幹細胞 |
研究概要 |
(1) SIRT1のグリオーマ細胞移動における働きの解明 血清存在下においてC6グリオーマ細胞での細胞移動におけるSIRT1の働きを検討したが、SIRT1阻害薬、活性化薬ともにC6細胞の移動にはほとんど影響しなかった。そこでSIRT1発現を検討すると、血清存在下ではC6グリオーマ細胞はdishに接着させた状態でSIRT1の発現が少ないが、無血清下で培養すると神経幹細胞と類似した細胞塊 sphereを形成しSIRT1が強発現することがわかった。逆にC6細胞を血清存在下に培養すると、細胞形態がやや扁平になり突起を形成し、同時にSIRT1の発現量が減少した。 (2) SIRT1のグリオーマ細胞生存における働きの解明 各種濃度のテモゾロミド(悪性グリオーマに対する抗がん剤)をC6グリオーマ細胞に作用させ、細胞の増殖抑制と細胞死について検討した。テモゾロミドは100μMから細胞の増殖を抑制する作用を示し、250μMでは明らかな増殖抑制が観察された。さらにSIRT1特異的阻害薬Ex-527を100μMテモゾロミドと併用すると、有意に細胞増殖を抑制し、250μMテモゾロミドを併用するとさらに顕著となった。このような作用は他のサーチュイン阻害薬のニコチンアミドやスプリトマイシンでも観察された。 (3) 臨床検体サンプルの検討 当科で手術された患者検体をもとに、悪性グリオーマ細胞の培養化とcell lineの確立をおこなった。これまでに5例でcell lineを確立し、このうちの2例についてSIRT1、CD133、nestin、GFAP、FOXO1、FOXO3a等の発現を細胞免疫染色によっておこなった。また臨床的にはより悪性であったline 71(glioblastoma)ではSIRT1は腫瘍細胞全体に強く発現していた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
cell lineの確立には手術検体の確保に時間を要し、さらに培養化が困難を極めたため、予想をはるかに上回る時間を要した。また、動物へ移植して治療をおこなうという目標に到達することができなかった。現在、動物モデルの作成を準備している。
|
今後の研究の推進方策 |
テモゾロミドなどの従来の抗癌薬にSIRT1阻害薬を併用して投与すると抗癌作用が著しく増強する可能性が高いことが本試験によって明らかとなった。SIRT1の高発現が腫瘍の悪性度を反映する可能性があり今後検討していく予定である。悪性度が高いほど、SIRT1阻害による腫瘍細胞増殖抑制効果も高くなる可能性がある。脳腫瘍細胞を移植した動物モデルでの検討を加えたあと、人への臨床応用を目指した取り組みを展開していきたい。 本研究報告者および他のグループによるこれまでの研究からSIRT1の機能が細胞ストレス耐性を向上させることが明らかであり、SIRT1阻害薬がC6細胞の増殖抑制に働く理由として、癌における酸化ストレスの増加が考えられる。これまでの他研究グループの報告からSIRT1はFOXO転写因子を脱アセチル化して活性化し、活性化されたFOXO転写因子は細胞に酸化ストレスを分解させるSOD2などの酵素を増加させることがわかっている。癌幹細胞においてもSIRT1はFOXOの活性化を介して幹細胞の酸化ストレス耐性を増強させる方向に働いており、SIRT1の阻害薬を投与することによって幹細胞の酸化ストレス耐性が減少して、増殖に影響を与える可能性が考えられる。 ニコチンアミドはビタミンの一種であり、皮膚科疾患の類天疱瘡の治療に経口投与されることがある。ニコチンアミドはビタミンの一種であり、人にこれまで投与されてきており毒性の問題も少ない。しかし、人にこれまで投与されてきた投与量で、腫瘍の増殖抑制効果が見られるかは今後の検討が必要である。SIRT1特異的な阻害薬を開発していく場合には、合成の専門家や企業等との積極的な共同研究が今後必要である。 なお、今回のデータはいずれも特許取得を目指しているため未発表である。論文、学会発表については特許出願後におこなう予定としている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|