研究概要 |
脊索腫は脊索の遺残組織から発生し頭蓋底に好発する腫瘍である。通常術後に放射線治療が行われるが、高率に再発を認め、予後は不良である。これまで脊索腫について分子生物学的特徴と予後との関係を調べた報告は少ない。今回私は比較ゲノムハイブリダイゼーション(comparative genomic hybridization; CGH)法を用いた染色体解析を行い、予後との比較を行った。また、近年脊索腫の進行において重要な役割を果たしているとされるT遺伝子とその産物であるbrachyuryタンパク質についても調べ、予後との比較を行った。CGHの結果、37例中24例で染色体異常を認め、log-rank検定の結果、染色体1pの欠失と1q, 2pの過剰がPFSと関連した。brachyuryの免疫染色は30例で陽性で、log-rank検定で陽性の症例はPFSが有意に短かった。T遺伝子のFISHでは、27%の症例でコピー数の増加を認め、log-rank検定でコピー数増加のある症例は有意にPFSが短かった。単変量解析で有意であった項目について多変量解析を追加すると、brachyuryの発現と放射線未治療の症例でPFSと関連する傾向が認められ、また、T遺伝子の増幅を含めた解析では、2pの過剰と放射線未治療の症例は有意にPFSが短かった。近年in vitroの研究で、T遺伝子が脊索腫の進行において重要な役割を担い、腫瘍遺伝子として振るまうとする報告が相次いでいる。今回私は臨床的な側面からbrachyuryの発現が負の予後因子であることを示した。また、brachyuryは今後分子標的治療の最適な標的の一つとなりうると考えられた。
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