本年度は京滋地域の脳卒中専門施設に協力依頼し、脳静脈血栓症例の登録研究を開始した。現在までに7症例の症例登録があった。(諸事情により登録開始が年度末になったが、今後さらなる症例登録が見込まれる。)前年度に作成した脳静脈血栓症データベース26例とあわせた全33症例において、本年度は脳静脈血栓症の診断、治療経過、転帰について検討を行った。33症例中初回頭部画像にて、13例に静脈梗塞、14例に頭蓋内出血を認めた。6例は頭蓋内病変を認めなかった。医療機関受診から脳静脈血栓症の診断に1週間以上を要した症例が33%あり、頭蓋内病変を認めない症例で多かった。急性期治療として、97%で抗凝固療法が行われ、6%で血管内治療が追加された。頭蓋内出血を認めた症例では35%で、抗凝固療法開始後に出血の拡大を認めた。退院時転帰に関しては、転帰不良(modified rankin scale:3-6)は36%であった。単変量解析で退院時転帰不良に関連する因子は高齢、頭痛がないこと、初診時に意識障害があること、治療開始後の頭蓋内病変増悪であった。 従来から脳静脈血栓症の診断は難しいといわれているが、本検討の脳静脈血栓症の1/3が診断遅延症例であった。本検討では診断遅延が転帰には関連しなかったが、脳静脈血栓症の早期診断のための画像的特徴をより明らかにしていく必要があると考えられる。現在登録中の多施設研究では、画像情報も集積されるので、研究代表者が初年度に論文報告した脳静脈血栓症の早期診断におけるT2*強調画像や拡散強調画像の有用性を検討していく予定である。また治療における問題点は、脳静脈血栓症の治療の第一選択は頭蓋内出血の有無にかかわらず抗凝固療法であるが、頭蓋内出血合併例で出血の拡大、症状増悪例が少なからず認められた。このような症例に対する血管内治療の早期介入なども検討していく必要がある。
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