本年度は、骨芽細胞や骨肉腫細胞において骨形成を制御するWnt/Fzdシグナル伝達に関する更なる検討を試みた。昨年度の解析から、Wnt3a発現抑制下においては、骨芽細胞分化が大きく抑制されたものの、下流において活性化する既知のシグナル経路であるβ-catenin経路、Ca2+経路、JNK経路、cAMP経路は、いずれもWnt3a強制発現あるいは発現抑制によって大幅な活性変動は認められなかった。そこで、他の活性化経路の候補として骨芽細胞分化を促進することが報告されていたERK経路とWnt3aの関係を検討した。骨芽細胞分化が著しく亢進したWnt3a/Fzd5の組み合わせを強制発現を強制発現させたERK上流のMEKに対する阻害剤を処理した際の骨芽細胞分化を評価したところ、阻害剤処理群における分化度の低下は見出されず、ERK経路の関与が小さいことが示唆された。そこで、下流の活性化シグナル経路が異なるのではなく、活性化の制御モードが異なる可能性を検証した。昨年度構築した評価系では、Wnt分子、Fzd受容体に加え共受容体LRP5/6またLRPの阻害剤Dkk1の添加条件において、既知4経路の活性化を評価していたが、この制御様式では評価できないモードを検討した。Wnt/Fzdシグナル伝達経路に関して、近年Ror1/2が共受容体として機能することが示唆されている。そこで、Ror1/2遺伝子をクローニングし、発現アデノウィルスを構築した。構築したアデノウィルスを用いて、Ror1/2過剰発現時の昨年度構築した下流シグナル活性化度を評価した。予備検討の結果、Wnt3a/Fzd5導入によるCa2+経路の活性化は、Ror2導入時において大きく低下することが見出された。今後、骨芽細胞および骨肉腫細胞でのWnt/Fzdによる骨形成促進の全体像にRorの関与を検討することが必要であると考えられた。
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