研究課題/領域番号 |
24791532
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
伊坪 敏郎 信州大学, 医学部附属病院, 特任研究員 (90467168)
|
キーワード | 腱細胞 / GDF8 / 筋芽細胞株 / 無血清培地 / miRNA / 標的遺伝子 |
研究概要 |
平成24~25年度はマウス未分化間葉系細胞株から腱細胞への分化を誘導する培養系を確立と,その培養系を用いて腱細胞の分化に特異的なマイクロRNA(miRNA)の検出ならびmiRNAの標的遺伝子の絞り込みを行った. マウス筋芽細胞株であるC2C12を様々な条件下で培養.腱細胞の分化を誘導する事が報告されているGrowth differentiation factor(GDF)5, 6, 7, 8を培地に添加,腱細胞特異的な分化マーカーの定量をリアルタイムPCRにて行い分化の程度を比較した.その結果,GDF8による刺激で腱細胞マーカーの発現が著しく上昇し,筋細胞への分化が抑制された. 蛋白レベルでの分化マーカーの発現については,無血清培地のみで培養したものと比較し,明らかな差を認めなかった.しかし,組織学的には,無血清培地のみの培養条件下では,マイオチューブの形成を認めたが,GDF8の添加によりマイオチューブの形成は抑制された.さらに,GDF8の下流で腱細胞の分化に関与するシグナル伝達経路を同定するため,候補となる各シグナル伝達経路の阻害剤を用いて実験を行った.その結果,ALK-Smad2/3を介したシグナル伝達経路が腱細胞の分化に重要である可能性が示唆された. 続いて,本培養系を用いてマイクロアレイによる腱細胞分化に関与するmiRNAのプロファイリングを行った.その結果,miR-322を含む計8つのmiRNAの発現が分化誘導後に著しく増加している事が確認され,さらにデータベース上での各miRNAの標的遺伝子の解析により,miR-322の標的遺伝子候補としてTubulin polymerization-promoting protein 3 (Tppp3)が検出された.Tppp3は腱ならびに腱鞘の発生に重要であることが既に報告されていることから,腱の分化に特異的なmiRNAの標的となっている可能性が高いと考える.また,他のmiRNAについてもいくつかの標的遺伝子の候補が検出されている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
無血清培地とGDF8の組み合わせによるC2C12の腱細胞への分化誘導については,これまでの一連の実験によりその再現性が確認され,その結果を第28回日本整形外科学会基礎学術集会とOrthopaedic Research Society(ORS) 2014 Annual meetingにおいて発表した. また,シグナル伝達経路の阻害剤を用いた実験の結果,GDF8による腱細胞分化誘導の際にALK-smad2/3シグナルが関与していることが示唆されたが,これについては,今後siRNAまたはshRNAなどを用いたsmad2,3の選択的な抑制やsma2, 3の強発現による腱細胞分化への影響などについて調べる必要がある. 本培養系を用いて,腱細胞の分化に特異的なmiRNAのプロファイリングを行った結果,miR-322を含む計8つのmiRNAの発現が分化誘導後に著しく増加している事が確認された.特にmiR-322はデータベース上の解析で腱ならびに腱鞘の発生に重要であることが報告されているTppp3が標的遺伝子候補として検出さていることから,腱細胞分化において重要な役割を担っている可能性が高い.他のmiRNAについても,Wntシグナル関連蛋白など腱の分化に関与していることが示唆される標的遺伝子が検出されており,今後これらについてさらに詳細に検討する必要がある.
|
今後の研究の推進方策 |
一連の実験で得られた腱細胞の培養系確立に関する結果に,現在行っているALK-smad2/3シグナルについての解析結果を追加し,英論文として国際学術雑誌に投稿する. また,腱細胞の分化に特異的なmiRNAに関しては,今後,データベースによるmiRNAの標的部位の絞り込みをさらに詳細に行い,まずリアルタイムPCRによる分化誘導前後でのmiRNAと標的遺伝子の発現量の定量を行う.続いて,検出されたmiRNAの抑制活性の測定と特異性の確認をレポーターアッセイにより行う.さらに,miRNAまたはその前駆体を細胞内に導入し,標的遺伝子に対する抑制効果をリアルタイムPCRによる標的遺伝子及び分化マーカーの定量により確認する.また,miRNAに対する特異的インヒビターを細胞内へ導入することにより,標的遺伝子の発現,細胞の分化に与える影響を調べる.以上,miRNAの検出から機能解析までのデータがまとまった段階で,日本整形外科学基礎学会ならびに米国のOrthopaedic Research Society(ORS)における発表,ならびに英論文作成の準備を行う.また,miRNAの機能解析で腱細胞の分化に最も重要と考えられるmiRNAのノックアウトマウス作成に必要な予備実験を行う.
|