研究概要 |
骨芽細胞は、間葉系幹細胞に由来し、未熟型から成熟型へと分化し、骨基質を産生する。その後、骨細胞やbone lining cellあるいはアポトーシスに至る。この骨芽細胞の最終分化のメカニズムを解明することは、骨粗鬆症研究において重要であるが、この過程を解析する細胞培養モデルはこれまで確立されていなかった。そこで、まず初めに骨芽細胞を骨基質の主要成分であるI型コラーゲンゲル上で培養を行った。その成果は以下とおりである(詳細はBone 52: 102, 2013を参照)。1)骨芽細胞の組織標本では、3日目以降、細胞数の増加、ゲル内への遊走が認められた。21日目以降では、骨芽細胞の細胞質周囲にミネラル化がおこり、骨小腔および骨細管様構造を形成した。2)ゲル内に遊走した骨細胞様細胞において、osteocalcin, DMP-1, SOSTなどの成熟骨芽細胞ないし骨細胞のタンパク発現がみられた。3)骨細胞マーカーのmRNA発現は単層培養と比較して増加していた。4)増殖活性を示すBrdU陽性細胞はおもにゲルの表層付近に見られ、14日目で最大となり、その後減少した。5)TUNEL陽性細胞は、7日目までは表層、14日目以降はゲル内で観察され、21、28日目でピークとなった。以上より、本培養系は骨芽細胞から骨細胞への分化を解析するのに有用なツールであることが示された。 次に、骨髄脂肪組織と骨芽細胞との混合培養では、骨髄脂肪組織の単独培養に比し、骨髄間質細胞の新生が有意に抑制された。アディポネクチン分泌は単独培養同様に低値で、有意差を認めなかった。レプチンは骨芽細胞との混合培養で有意に低下した。骨芽細胞の増殖は、骨髄脂肪組織との混合培養により有意に減少した。骨芽細胞分化マーカーはいずれも著明に低下した。混合培養の結果、骨芽細胞と骨髄脂肪組織は、互いの増殖、分化を抑制していることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、骨芽細胞-骨細胞分化系列の分化・増殖・アポトーシスの解析が可能なin vitro assay systemが確立された。また、骨髄脂肪組織と骨芽細胞との混合培養による相互作用が示された。しかし、その詳細なメカニズムの解明には、さらなる研究が必要である。今後、網羅的遺伝子解析の結果などの結果を踏まえて、骨芽細胞、脂肪組織相互の増殖・分化抑制因子の解明、脂肪毒性の解析を進めていく。脂肪酸を細胞内に取り込む脂肪酸輸送分子(FATP-1, 4, 6, CD36)、脂肪蓄積に伴うストレス応答として、セラミドの発現や酸化ストレス分子(酸化ストレスマーカー: 8-OHdG, 4-HNE; 酸化ストレスシグナル: NF-kB, MAP kinase [ERK1/2, p38]; 酸化ストレス制御因子: SOD)、小胞体ストレ分子(アポトーシス促進シグナル: IRE1, JNK; 小胞体ストレス制御シグナル: PERK, eIF2alfa, ATF6alfa/beta)の発現を免疫組織化学、Western blot、real-time PCRで比較検討する。以上により骨髄脂肪組織が骨芽細胞の脂肪蓄積、脂肪毒性や脂肪酸輸送・酸化ストレス・小胞体ストレス分子の発現に与える影響を明らかにする。 脂肪細胞による骨芽細胞の増殖・分化の抑制因子の解明は、骨粗鬆症の新規治療薬の開発につながることが期待される。一方、骨芽細胞による脂肪組織からの骨髄間質細胞の遊走抑制因子の解明は、脂肪組織のexpansiveな増殖を抑えることにつながり、肥満の治療に役立つ可能性がある。
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