研究課題/領域番号 |
24791563
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岩波 明生 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (40327557)
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キーワード | Glioblastoma / PML / 分子標的療法 / 脳・神経疾患 |
研究概要 |
Glioblastoma(GBM)に対する新たな分子標的治療法を確立するため、PMLに注目し研究を行っている。昨年度は、GBM における腫瘍抑制因子PML のin vitro での機能解析とPML をTarget とした分子標的治療のin vitro, in vivoにおける有効性について報告し、論文として投稿・受理された(Iwanami et al, PNAS 2013。PMLはGliolastoma患者の約40%の腫瘍組織内に高発現しており、ErlotinibやRapamycin, pp242などの抗腫瘍薬剤に対して薬剤抵抗性を持つこと、亜ヒ酸(As2O3)を用いたPML targetingによりPMLを分解すると共に抗腫瘍薬剤を投与すると薬剤感受性が増大することが分かった。本年度は、この結果をもとにPMLが抗腫瘍効果を持つメカニズムを追究すべく、新たな実験系を組んで研究を行った。 1.GBM患者腫瘍組織由来細胞株の作成および培養・継代と in vitroでの機能解析 共同研究先(UCLA, UCSD)から得られたGBM患者腫瘍組織由来細胞を培養し、いわゆるNeurosphere法あるいは接着単層培養法により未分化状態を維持して培養し細胞株化する(GBM患者由来腫瘍細胞株の確立)。これらの細胞における増殖能・分化能・ゲノム変異・PMLの発現などを調べる。また、当院でも倫理申請を行った上で、GBM患者由来細胞株の確立を目指し、同様の研究を行う。 2.PML高発現GBM細胞株(U87PML)を用いたin vitroでのPML機能の解析 PML高発現株U87PMLおよびコントロールU87細胞株を血清培地で培養し、これらの細胞からRNAおよび代謝物質の網羅的解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時の目的の達成度に関しては、ほぼ達成されたと考えている。 当時は、「GBMに対するPMLをtargetとする分子標的治療の有効性を確立すること」が目標であった。GBMの細胞株であるU87細胞を用いたin vitroでの解析により、PMLが高発現することにより細胞周期が遅延し、その結果dormant(増殖が遅く静止期に近い状態)となった細胞が抗腫瘍薬剤に対して薬剤抵抗性を持つことを証明した。同時に今年度行う予定であったin vivoでのGBMモデルに対するPML-targetingの有効性の確認が、皮下腫瘍モデルを用いることで予想よりも早く有効性のデータが得られた結果、幸い論文投稿・受理されることができた。しかしその一方で、GBM患者組織のPML高発現細胞がどのような細胞集団であるのか、あるいはPMLが高発現することによる薬剤抵抗性のメカニズムは何によるものなのかはまだ不明な点が多い。申請者は残された期間を有効活用して、そのメカニズムを追究したいと考えている。そのため、上記の研究計画の概要で述べたような実験計画に基づき研究を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は上述の新たな研究計画に則り、GBMにおけるPML高発現細胞の機能解析を行いたい。過去の報告からも、腫瘍には腫瘍幹細胞の存在が強く示唆されているが、腫瘍幹細胞は通常dormantな状態(増殖が遅く、静止期に近い状態)で組織中に維持されているといわれる。PML高発現細胞と腫瘍幹細胞の関連性については不明であるが、PML高発現細胞の機能解析を行うなかで、幹細胞との共通項が見いだせれば非常に興味深い。 また、昨年度力を入れた腫瘍患者由来の細胞株の確立に関しては、当院での患者由来倫理申請も承認され、すでにGBM患者由来の細胞株を確立し始めている。共同研究先のGBM患者由来腫瘍細胞株と併せて、増殖能、分化能、ゲノム変異などの詳細なin vitroでの解析を行っている最中である。これらを詳細に検討した上で、申請時の予定どおりにマウスやラットの脊髄内にこれらの腫瘍細胞を移植し、腫瘍形成能の比較や下肢機能の評価を行う。また、PML高発現細胞株(U87PML細胞)を用いた解析に関しても、トランスクリプトーム解析、メタボローム解析の方法を習得した(当大学生理学および医化学教室との共同研究による)。U87PMLおよびコントロール細胞を用いた2群での予備比較実験を開始している。これらの結果を踏まえて、PMLによる薬剤抵抗性のメカニズムを解明したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度は、データ整理、論文作成などに予定を変更して時間を割いた。その結果本研究内容に関しては,論文投稿・受理となっている(Iwanami et al, PNAS 2013) 一部共同研究先のUCLAなどでもvivo実験部分を分担して行った結果、研究費使用を次年度に持ち越すこととなった。Facs sortingなどに使用する目的の抗体も、予備実験施行までとなり、予定ほど大量には購入していない。今後メタボローム解析やトランスクリプトーム解析による使用やin vivo実験も控えているため、次年度に持ち越す予定である。 次年度は、引き続きGlioblastoma由来細胞の培養に関する培地、フラスコ、栄養因子などの費用やFacs sorting, 免疫組織学的解析用の抗体費、各種抗腫瘍薬剤の購入費、メタボローム解析、トランスクリプトーム解析費、動物実験用器具、実験動物代などに割り当てる予定である。
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