研究実績の概要 |
グリオーマ、中でもGlioblastoma(GBM)の治療は現在、外科的切除と放射線・化学療法の併用であるが、治療成績は良いとは言えず、新しい治療法の開発が急務である。 再発の原因として、腫瘍細胞の化学療法への抵抗性が挙げられるが、そのメカニズムは明らかではない。一方PML は腫瘍抑制因子であるが、細胞の生存や恒常性の維持にも深く関与している。近年PMLが血液腫瘍幹細胞や神経前駆細胞に高発現し、さらに腫瘍再発の一因であることが報告されてきた。本研究の目的は、PMLのGBMにおける発現・機能を解析し、その腫瘍増殖や薬剤抵抗性に関するメカニズムを明らかにすることで今後の新しいGBM治療の一助とすることである。 まずUCLAで手術を受けたGBM患者87名の腫瘍組織を免疫組織学的に解析しPMLの発現やKi-67, 腫瘍増殖に関わるEGFシグナルの関連分子(p-S6)の発現の検討を行った。約40%の患者でPMLは高発現していることが分かった。次にin vitroでグリオーマ細胞株であるU87細胞にPMLを高発現させると、細胞増殖能は低下するが、抗腫瘍薬剤Rapamycinやpp242, Erlotinibなどの薬剤耐性が増大することが分かった。逆に、PMLをノックダウンすると、細胞増殖能は増大し、上記の薬剤感受性が増大することがin vitroで示された。PMLに直接作用しこれを分解する亜ヒ酸を用いて同様の実験を行ったところ、やはり同様の傾向が見られたことから、PMLの発現上昇により細胞がdormantな状態となることが薬剤抵抗性の一因になっており、このPMLを選択的に分解することにより、抗腫瘍薬剤に対する薬剤感受性が増大することが示唆された。AS2O3は臨床応用されている薬剤であり、今後はGBMに対する新たな治療戦略として、AS2O3と従来の化学療法の併用療法の有効性が期待される。
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