研究概要 |
椎間板は、加齢や炎症性疾患などのトリガーによって椎間板のマトリックス産生が低下するか変性作用が上昇すると、マトリックス構造は破壊され、次第に椎間板変性が進行すると考えられる. さらに椎間板の大きな特徴として、人体中において最大の無血管組織であることである. そのため栄養物質や酸素は線維輪周囲および軟骨終板へ分布される毛細血管網から椎間板の基質を介した拡散や、濃度勾配による拡散によってのみ供給される. このことは、椎間板組織は平常状態において他の組織に比較して低酸素状態となっており、力学的ストレスや炎症による消費亢進により、椎間板における酸素分圧は変化する. そのため椎間板における酸素分圧変化(低酸素・浸透圧)により惹起される血管新生といったシグナルの解明は椎間板変性のメカニズムを解明する上で新たな視点を提供すると考えられる. さらに、我々は以前に椎間板中のWntシグナルの活性化により椎間板細胞の老化を引き起こし,椎間板細胞増殖が抑制される事を報告した (Hiyama et al. Arthritis and Rheumatism, J Cell Physiol, 2010. J Cell Biochem, 2011.).この事は, Wntシグナルが老化含めた椎間板変性症の発症・進行に何らかのtriggerとして重要な因子となっている事が推測されるが,その機能調節メカニズム (シグナルクロストーク) については未だ十分に解明されていない. そこで本研究は、椎間板の恒常性維持に関与するとされるVEGFに注目し、椎間板においてのVEGFとWntシグナルの詳細な分子学的機能【シグナル制御】について解析を行うことを目的とした. その結果、Wntシグナルの活性化が血管誘導因子であるVEGFの発現を転写活性・遺伝子・蛋白レベルで亢進することが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
椎間板(脊索)におけるβ-galactosidase活性を評価するためembryonic day 16(e16) とday 18(e18)でのX-gal 染色を行う.引き続き新生3週のTOP-GAL mouseの切片を作成しX-gal 染色を行う. その後β-catenin とVEGFとの発現と局在 (免疫学的組織染色法) を免疫2重染色を用い解析する.また新生3週のTOP-GAL mouseから脊索細胞を抽出後に初代培養を施行する. 初代培養後, Normoxia, Hypoxia環境下でのVEGFアイソフォームおよび受容体の遺伝子/蛋白発現解析を行う. 同時にHif1α, Hif2αの発現についても解析する. 引き続き、ビーグル犬を用いた大型動物椎間板変性モデルを作成する. (Hiyama et al. JOR, 2008参照)作成後, 4週, 8週, 12週で屠殺し切片やTotal-RNAを抽出し, 椎間板中のVEGFの発現および局在をControl群(変性処置なし)と比較するため免疫染色や遺伝子解析を行う. 椎間板の変性度については, MRI (T2WI)を各々の週で施行し, 椎間板変性度を確認する. 腰椎レントゲンでも椎間板高について評価する.結果より, 椎間板変性の起こるメカニズムを解析し, Wntキナーゼ阻害薬(XAV939), inhibitors of Wnt response (IWRs) や抗VEGF抗体ベバシツマブ(Bevacizumab, 商品名アバスチン®)を用いて, これまで報告してきた大型動物椎間板変性モデルに応用(経静脈的もしくは変性椎間板への局所注入療法)し,その変性椎間板への影響(効果)についての有効性や 妥当性について検討する.
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