研究課題/領域番号 |
24791572
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
小野寺 勇太 近畿大学, 医学部附属病院, 助手 (30510911)
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キーワード | 軟骨細胞 / ROS / 軟骨破壊 |
研究概要 |
高齢化社会の到来に伴い、変形性膝関節症(OA)などの関節疾患の有病率が増加している。OAを始めとした関節疾患では様々な要因により関節軟骨の損傷や滑膜組織の炎症により、歩行時や加重時に疼痛を伴うことから、高齢者の生活におけるQOLを著しく低下させる要因となっている。 軟骨組織は自己再生能力に乏しいため一度損傷すると自発的な再生・回復を望みにくく、高齢者においては特にその傾向が顕著である。これまでに、軟骨組織に対する物理的ストレスの負荷が軟骨細胞における活性酸素種(ROS)の発生を誘引し、組織の変性を加速度的に進行させることが報告されている。ROSは様々な組織における重要な組織障害因子であるにも関わらず、軟骨におけるROSの発生からROSがもたらす症状のメカニズムの理解は十分とは言えない。ROSによる軟骨の障害を緩和することは非常に重要な手がかりとなると考えられる。しかし、ROSの発生をもたらした細胞内分子メカニズムは依然不明であり、ROSが軟骨細胞におよぼす影響についても未知の点が多い。本研究では強い物理的(圧迫)ストレスに対し一次的に応答するシグナル分子の探索を行い、この機構に介入する方法の開発を目指す。具体的な研究として、1) 軟骨組織に対する荷重の負荷とストレス応答物質の探索、2) 炎症・基質破壊カスケードとの関連性に関する研究を計画した。初年度(平成24年度)にはウシ関節軟骨組織をモデルとして、周期的圧迫負荷を行いストレスセンシング機構の探索を実施した。2年目の昨年度(平成25年度)は、軟骨細胞破壊の制御を目的とし初年度に探索したプライマリーセンサーをターゲットとした研究を実施した。また、すでに日常診療で症状緩和薬として使用されているヒアルロン酸による軟骨細胞のストレス除去メカニズムがこの過程の中で見出され、現在海外誌に投稿しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目に当たる昨年度は、当初の予定通り初年度で得られたプライマリー分子と軟骨組織の炎症・破壊に関わる既知の物質との関連性について検討した。また、変形性膝関節症を始めとした膝関節組織における疾患に対し、既存薬としてヒアルロン酸製剤による治療があるが、症状緩和の詳細なメカニズムは知られていない。そこで我々が初年度で得たカスケードに対し、ヒアルロン酸が軟骨破壊のメカニズムをどのように制御しているのか検討した。その結果、ヒアルロン酸の持つ抗酸化効果のメカニズムをin vitroで示すことに成功し、ROSによって発現が抑制されていたCOl2a等の軟骨特異的なマーカーの亢進や、発現が上昇していた軟骨破壊マーカーであるADAMTSの抑制が認められた。これより、膝関節組織の治療におけるヒアルロン酸投与の有用性を示すメカニズムが示唆された。 今後、軟骨細胞のみならず既に滑膜細胞においても炎症とストレスに関する研究もスタートさせており、3年目の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、膝関節疾患において症状の増悪に極めて重要な役割を担う滑膜細胞についても、ROS由来の炎症メカニズムを解明するとともに、主にin vitro実験系においてカスケードの中間分子の検索を進めていきたい。また、既存薬として用いられているヒアルロン酸と中間分子の関係性も検討し、滑膜細胞に対する抗炎症効果・抗疼痛効果のメカニズムを明らかにしていきたい。これより、膝関節疾患への抗炎症・抗酸化・抗疼痛効果へのアプローチやメカニズムを明らかにし、実際の治療への有効性を検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度までの2年間でプライマリー分子と軟骨組織の炎症・破壊に関わる既知の物質との関連性について検討した。また、選択的阻害剤を用いた効果も確認することが出来た。 次のステップとして滑膜細胞への影響を検討し、膝関節一体の炎症反応の解明を進めてく予定である。 当初の予定に付け加え、膝関節の総合的な病態の理解を目的とし滑膜細胞における炎症メカニズムをin vitro実験系において検討していく予定である。 計上通り、分析試薬・培養試薬の購入に使用する。
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