高齢化社会の到来に伴い、変形性膝関節症(OA)などの関節疾患の有病率が増加している。関節疾患では様々な要因により関節軟骨の損傷や滑膜組織の炎症により、歩行時や加重時に疼痛を伴うことから、高齢者の生活におけるQOLを著しく低下させる要因となっている。 本年度は、過去二年に渡り探索し明らかとなった軟骨変性の抑制因子となりうるNF-E2-related factor 2(Nrf2)、ストレス応答に関するプライマリーセンサーであるTAK1をそれぞれターゲットに軟骨細胞や滑膜細胞への有効性を検討した。 ①DNAやタンパク質を直接酸化するストレス因子を分解・解毒するHO-1やNQO-1、GSTなどといった酵素は酸化ストレス応答因子であるNrf2によって制御されている。OAにおいて、酸化ストレスは有意に上昇している。そこで、正常ウシ軟骨細胞のNrf2をsiRNAを用いてノックダウンしたところ軟骨細胞特異的なSox9およびCol2aが有意に低下していること、ROSの上昇と共に、マトリックス分解酵素の一つであるADAMTS-5が有意に上昇していることが明らかとなった。さらに、OAの治療薬の一つであるヒアルロン酸を用いたところ、CD44/RHAMM-Aktを介してNrf2を活性化し軟骨細胞の恒常性に寄与していることが示唆された。 ②軟骨組織を取り巻く滑膜組織は、OAによる炎症により肥大化することで慢性的な痛みを作り出す原因の一つと考えられている。本研究で過酸化水素による刺激によってTAK1が活性化することが明らかになった。また、ヒアルロン酸の添加によってROSが除去されTAK1および疼痛マーカーであるCOX-2/PGE2の抑制が可能であった。 現在、①および②はそれぞれ海外誌に投稿中であり、①においては査読結果がMinor revisionとして返却されており再投稿の準備を進めているところである。
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