研究課題/領域番号 |
24791575
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所) |
研究代表者 |
笹川 覚 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所), その他部局等, 研究員 (80345115)
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キーワード | 転移メカニズム / 幹細胞性 / 骨肉腫 |
研究概要 |
強い幹細胞性と高転移能の2つの視点から、ヒト滑膜肉腫細胞株Aska-SSおよびYamato-SS、マウス骨肉腫細胞株DunnおよびLM8を用いた定量的遺伝子発現スクリーニングにより、現在までに両方の性質に根源的に関わっている分子としてTwist1を同定している。Twist1を高発現している細胞株(Yamato-SS、LM8)ではTwist1タンパク質レベルでほとんど検出されない対照株(Aska-SS、Dunn)とくらべて細胞表面に多数の樹状突起と高いSpheroid形成能を示した。これらの性質は腫瘍細胞の転移能、幹細胞性との強い関連性が最近の上皮性がん(Carcinoma)の研究で注目されつつあり、骨肉腫(Sarcoma)においてもその重要性が浮かび上がった。 転移と幹細胞性は一見すると別の事象であるが、分子レベルではTwist1を軸足とした一連の事象であることが推測される。この点を明らかにするため、Twist1の発現メカニズムと転移予防のための分子標的を探る目的でTwist1の発現に関与するシグナル経路を探索した。その結果、骨肉腫で高発現しているBMPシグナルがTwist1の発現をドミナントに調節していること、HDAC阻害剤、mTOR阻害剤がTwist1の発現を効率的に抑制することを見出した。 現在、分子レベルで細胞動態を探り、Sarcoma全般に共通の性質と各Sarcomaに特異的な性質とを見極めるため、レンチウイルスを用いた様々な分子の安定発現株及び誘導型安定発現株の作出を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
骨軟部腫瘍は上皮系腫瘍と比べて高頻度に転移を起こすほか、強い幹細胞性を示すことが知られている。これらの2つの現象を統一的に説明しうる分子としてTwist1を同定出来たことは骨軟部腫瘍研究を進める上での大きな足がかりとなる。 また、Twist1の発現制御の理解とそれを基にした骨軟部腫瘍の転移抑制を目指した薬剤の探求へと研究を進めつつあり、概ね計画通りの進捗と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
骨軟部肉腫は進行度が早く転移も頻繁に起こす。骨軟部腫瘍は上皮系腫瘍とことなり上皮-間葉系遷移(EMT)を起こさずとも本質的に間葉系の性質が強く、薬剤耐性、放射線治療耐性が高いため、上皮系腫瘍や白血病等と比べて外科的処置以外の治療戦略に選択肢が少ない。また、上皮系がんも含め、転移を抑制するための薬剤はこれまでに実用化されていない。 今後の研究方向性として、分子レベルで明らかにしたTwist1の発現メカニズムや調節シグナル経路から分子標的となり得る候補分子に対する既存薬物や候補化合物、作用機序ははっきりしないものののTwist1の発現を抑制しうるHDAC阻害剤、mTOR阻害剤などを用いて転移抑制効果を見極めていきたい。マウスOsteosarcoma高肺転移株LM8は免疫システムがほぼ正常なC3Hマウスの皮下に移植すると移植部に腫瘤を形成するとともに移植後5,6週で肉眼で観察できる肺転移層を形成できるため、ヌードマウスに尾静注で腫瘍細胞を打ち込んで肺に生着させる実験系と比べてより臨床モデルに近く、実践的な評価が期待される。 現在、マウスOsteosarcomaおよびヒトsynovial sarcomaの細胞株を用いてTwist1の発現メカニズムおよび幹細胞性、腫瘍悪性化への寄与メカニズムを詳細に分子レベルで解析するとともに、既存の抗がん剤や候補化合物等を用いた転移抑制効果のための動物実験を計画、実施予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
キャンペーンなどで消耗品、試薬等が予定よりも安価に購入できたため。 目的を変更すること無く、次年度内に使用する。
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